取材・文/柿川鮎子 写真/木村圭司

獣医さんが教える犬の肥満が危険な4つの理由

寒い冬は犬の散歩時間も短くなり、運動不足による肥満になりがちです。犬の肥満に関連して、飼い主が知っておくべき危険な4つのポイントを、ひびき動物病院の岡田響先生に教えていただきました。1)肥満と寿命の関係、2)肥満が原因となる結石、3)その他の内臓病(糖尿病や膵炎)、4)関節炎です。

その1)肥満の犬は寿命が短い

犬の肥満に関する論文で、同じ親から生まれたラブラドール・レトリーバーの兄弟のうち、食事制限を行った場合とそうでない場合を調べた結果、寿命に差が出たという研究結果が2002年に報告されています。食事制限を行い、体重をコントロールした犬は13歳、食事量の制限をしないで肥満だった犬は11.2歳で亡くなりました。

たった2年弱ではありますが、ラブラドールの寿命を人間に例えるならば、10歳近い計算です。愛犬が健康で長生きするためには、肥満にさせないことが大切だと、岡田響先生は言います。「普段の診察でも、肥満の子は寿命が短いと、何となく感じることが多かったので、研究結果には納得です」。

2018年の論文でも、犬の寿命と肥満は密接に関係することが再度、明らかになりました。この研究ではアメリカの900の動物病院で、5787頭のボディコンディションスコア(視診と触診による肥満度の指標となる点数)と寿命の関係の調査が行われました。

チワワ、ポメラニアン、ヨークシャーテリア、シーズー、アメリカンコッカースパニエル、ビーグル、ダックスフント、ボクサー、ピットブル、ジャーマン・シェパード、ラブラドール・レトリーバーとゴールデン・レトリーバーのそれぞれ雄雌を対象として調べた結果、肥満傾向にあるボディコンディションスコアで半年~2年以上も寿命が短くなる結果がわかりました。

獣医さんが教える犬の肥満が危険な4つの理由
その2)肥満が原因となる結石に注意

肥満の問題は寿命だけではないと、岡田先生は言います。肥満は万病の元であり、特に犬の肥満は尿路結石とも関係があると教えてくれました。「肥満になると尿路結石にもなりやすくなります。脂肪が代謝されるとシュウ酸ができるため、摂取する脂肪分が多いと尿中のシュウ酸濃度が高くなって、シュウ酸カルシウム結石ができやすい環境となります。結果的に尿路結石や膀胱結石になりやすくなってしまうのです」。

シェルティ、シーズー、シュナウザーなどは脂肪の代謝が独特で、肥満になりやすい性質をもっています。そして結石のできやすい犬種としても知られています。他の犬種以上に、脂肪の代謝に注意する必要があります。また、脂肪の代謝とは別に、ヨークシャテリア、チワワ、パピヨンなど小型犬種のなかで、結石のできやすい犬種もいます。

その3)その他の内臓病、糖尿病と膵炎

結石の他にも、肥満の犬が気を付けるべき病気に糖尿病と膵炎があります。糖尿病は人間にも多い成人病のひとつで、人と同じように、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが不足して、血糖値が上がってしまうのです。

血糖値が上がり糖尿病が進行すると、さまざまな合併症(白内障、神経障害、糖尿病性腎症、肝障害など多臓器不全)を引き起こします。なかでも糖尿病性ケトアシドーシスという病気は危険な合併症のひとつで、死に至る可能性もある、怖い病気です。

膵炎も同様に、激しい腹痛とともに嘔吐下痢を繰り返し、強い炎症が全身に拡がり多臓器不全の合併症を引き起こす怖い病気です。岡田先生によると「膵炎や糖尿病になってしまうと、命の危険があるために一生涯治療が必要になることもあります。そうならないためにも、肥満の予防はとても大切なのです」と言います。

その4)肥満犬は関節炎になりやすい

肥満になると、ヒト同様に、犬も肢や腰、関節に必要以上の負担がかかって、関節炎に罹りやすくなります。慢性化して痛み止めを継続して服用しなければならない、とか、中~大型犬の子では立ち上がることができなくなり、いずれ寝たきりになることもあります。犬にとっても人にとっても辛い病気のひとつです。

獣医さんが教える犬の肥満が危険な4つの理由
■太ったら減量するのではなく最初から太らせない

病気名を知ると、肥満の怖さがジワジワとこみ上げてきます。岡田先生によると、「肥満は摂取カロリーが消費カロリーを上回ることが主な原因で、ペットの場合も食生活に大きく影響をうけます。ペットは食べ物を選べません。ペットの体重は与えてくれる飼い主さんの影響が大きいのです。また、人間と同じように、太るより減量する方が難しいので、減量するより太らせない、という認識が必要です」。

「肥満が怖いという話ですが、飼い主さんによっては、うちの子が太っている、ということがよくわかっていない方もいらっしゃいます。犬では基準体重から15%以上の過体重で肥満なのですが、10キロの子で1.5キロの差ですが、2キロの子だとたった300グラムの差でしかありません。これは缶詰一個分の重さです。太っているという基準がわかりにくいのかもしれません。動物病院に来て頂ければ、その子に合った体重管理のアドバイスできるので、うまく動物病院を利用していただきたいです。体重を測るだけの目的で来院される方も、普通にいらっしゃいます」と、ウエイト・コントロールに関する相談は大歓迎だそうです。

■ダイエットのために上手に動物病院を活用

体重管理は、量を減らせばいいという問題ではなく、犬種や体質、性格など個体によってやり方にいろいろ違いがあると岡田先生は言います。「以前聞きに行った講義では、痩せているよりも、逆にややぽっちゃり系の犬の方が心臓病の場合は寿命が長いと講師の先生が教えて下さいました。どんなことでも、一つのことだけで判断することは危険で、単に『体重を減らせばいい』というわけにはいかないのが、大事なポイントです!」と教えてくれました。

「肥満からの病気も、心臓病も、悪くなれば入院が必要な状態になります。そんなことにならないように、普段からうまく動物病院や私たちを活用していただきたいと思います。これから春になると狂犬病やフィラリア予防やノミ・マダニ予防など、動物病院に行く機会も増えるかと思います。そんな時にでも、ついでに、うちの子はどう?って聞いてみて欲しいと思います。近所を通りかかったので、体重を測って欲しい、というのでも構いません。ダイエットフードへの切り替え相談なども大歓迎」と岡田先生。私も春から、うちの子とダイエット宣言です。

岡田響さん(ひびき動物病院院長)
取材協力/岡田響さん(ひびき動物病院院長)
神奈川県横浜市磯子区洋光台6丁目2−17 南洋光ビル1F
電話:045-832-0390
http://www.hibiki-ah.com/

文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

写真/木村圭司

 

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