文/柿川鮎子

大好きなうちの子の匂いと思っていたのが、実は口臭で、それも歯周病という怖い病気だったという体験をしました。犬の飼い主の友人たちに聞くと、「目の近くから血が出た」とか「鼻血が出た」という怖い話や、「麻酔をかけて、歯を抜いた」という人もいて、犬のデンタルケアは意外と身近で深刻な問題のようです。今回はホームドクターとして活躍中のひびき動物病院院長の岡田響さんに、愛犬のデンタルケアについて聞いてみました。

前島ブン太君は飼い主さんが異常に気づいてくれました

前島ブン太君は飼い主さんが異常に気づいてくれました

■愛犬のお口のニオイ・チェックのススメ

岡田さんによると、

「愛犬の口が臭いという場合、半分以上はすでに治療が必要なレベルになっているケースが多いようです」

と言います。私の場合の様に、馴れてしまうとそんなに臭く感じなかったり、その子の匂いと思ってしまいがちですが、やはり、匂いがした時点で、ホームドクターに相談して、早めに処置した方が犬の負担が軽くなります。後悔ばかりの私と、獣医師との会話を再現してみました。

「先生、最近くしゃみがでるんです。風邪かしら?」
「鼻水は出ますか?」
「少し出ます。大体透明な液で、うっすらティッシュがピンクになった事があります」
「歯が抜けた事は、ありますか?」
「そういえば少し前に……家族が落ちている歯を見たとか、言ってました。でも、実際どうかわかりません。私は直接見たことがないのです」
「歯みがきはやりますか?」
「……嫌がるので……ちょっと……(できなかったんです)」

「口の中を見てみましょうね。やっぱり抜けている歯があります。そして、これ、見て下さい。歯の根っこが赤くなって、血がにじんでいるのがわかりますか?歯が汚れているのは見えますか?歯石がかなりついていて、もう歯が見えない所もありますよ」
「はぁ……?(よくわかんないけど、そうなのかしら?)」
「(先生が、カリッと歯石を少し取る)ちょっとここを見て下さい。ここの取れた奥は白い歯がみえるのがわかりますか?」
「あ、ホントだ!削ったら白い!白くなった!ということは、これ、全部歯石なんですか?!」
「そういうことです」
「えぇ~っ!」
「ちょっと見て下さい。もう歯石のせいで歯肉がもろくなって、この歯なんて、グラグラしてきていますよ」
「えぇ~っ(泣)ごめんね~~っ」

こうした会話を経て治療となりましたが、岡田さんによると「しっかりやりたいという希望であれば、やはり麻酔が必要になります」ということでした。私の場合はまずレントゲン検査(歯)をして状態を把握し、血液検査で麻酔をしても大丈夫かどうかを調べました。その後、点滴、麻酔、歯石クリーニングと歯の研磨、まで行って、日帰り手術でした。手術当日の朝から絶食で、朝一番に病院に預けた後、夕方引き取って帰ってきました。費用は少しかかりましたが、それよりも気づかずに可哀想なことをしてしまったと後悔しています。

岡田さんによると、せっかく麻酔をして処置を行っても、「そのまま何もしなければ、いい状態は保てませんよ」と教えてくれました。いったんきれいにしても、食事をすれば、また汚れがついて、歯石がたまっていくからだそうです。また、うちの子のように歯石がたまりやすい子とそうでない子の差が大きいとか。食べ物や食べ方、食生活の違いなど、さまざまな要因が考えられるので、まずは状態を把握するためにも、ホームドクターと相談した方がよさそうです。

動物病院ではこうした歯の模型を使って指導してくれる

動物病院ではこうした歯の模型を使って指導してくれる

■犬の場合は虫歯でなく歯周病

犬の場合、ほとんどが虫歯ではなく、歯周病だと言います。専門家による調査では、犬の場合、虫歯は歯の病気の中でも5%程度しかなく、約80%と圧倒的に多いのは歯周病です。犬の歯周病とは、歯周病菌によって歯ぐきなどに炎症が引き起こされる病気です。歯ぐきの炎症「歯周炎」が、まわりに波及して「歯周病」となります。さらに歯周病が進行すると、目元や鼻から出血することもあるとか。いずれも歯についた歯垢(しこう、プラーク)と歯石が原因となっています。今回の、ひんぱんにしていたくしゃみの原因はこれでした。

岡田さんによると、歯石になる前の歯垢の段階で除去してしまえば、歯石にならず、簡単に予防できると言います。ジェルや歯磨き剤を使い歯をこすって歯垢を落とすほか、口の中を触らせてくれない子には、食べさせる歯垢予防剤もあります。歯磨きができる犬用ガムは予防メインだそうですが、何もしないよりはいいとのことでした。

「一番いいのは歯みがきですが、口の中を清潔に保てるもので、嫌がらずに続けられる方法があれば、どんなものでも良いので、やって欲しいです。その子に合った方法は何か、分からない時は、獣医さんといっしょにデンタルケアの相談をしてみては?」と岡田さんはアドバイスしてくれました。

■デンタルケアのポイントとは

コツは「遊びながら口の中をチェックして歯垢をためないようにすること」だそうで、やはり、飼い主が見た目と匂いでチェックすることで、デンタルケアが可能になるようです。お口がちょっとでも匂ったら、まずは動物病院でチェックしてみてください。恐ろしい歯周病を防ぐためにも、飼い主さんの口臭チェックが有効です。

岡田さんに、自宅でのオーラルケアに関して、いくつかの重要ポイントを教えていただきました。「骨ガムやひづめなどを咬んで、オーラルケアをしようという商品はたくさんあります。飼い主さんは硬いほうが歯垢が取れやすいと何となく思われがちですが、硬いか柔らかいかではなく、効果的に歯に当たっているかが問題なのです。逆に、あまり硬いと臼歯(奥歯)が割れたり欠けたりするケースがありますので、カチカチなガムはNGになる場合があることを、飼い主さんは意識してください」。

「歯磨きポイントですが、犬の場合は特に汚れやすい部分があります。奥歯で、上顎の第4前臼歯と呼ばれる、ちょっと大きな歯です。くぼんでいるので汚れがたまりやすくなっています。汚れる上、近くに唾液が出てくる部分があるので、唾液の成分(カルシウム)が歯石の元にもなりやすいので、飼い主さんはここが汚れているかどうかを見ておくと良いですよ」。

第4前臼歯は奥にあり、中央がくぼんでいるので汚れがつきやすい

第4前臼歯は奥にあり、中央がくぼんでいるので汚れがつきやすい

「あと、大きなガムや骨を丸のみしてしまい、トラブルになることもあります。ヒトが手にもったまま食べさせる(噛ませる)とか、どのぐらいの大きさがうちの子に適切かなど、ホームドクターと相談して、うちの子に合った正しいケアで、愛犬と楽しい歯みがきタイムを過ごしてください」

と岡田さん。わが家でも焦らず楽しく、定期的にケアしていこうと思っています。

取材協力/岡田響さん(ひびき動物病院院長)
神奈川県横浜市磯子区洋光台6丁目2−17 南洋光ビル1F
電話:045-832-0390
http://www.hibiki-ah.com/

文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

 

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