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命あるものは平等に尊いと考えた日本人| 供養碑に見る動物愛護の軌跡

取材・文/柿川鮎子 写真/木村圭司

蜂・ムカデ・ゴキブリまで⁉ 供養碑に見る日本人の動物愛護

日本人は世界に類を見ない、動物愛護精神をもった国民でした。生きている動物に対しては正しく飼育するための飼育書を作成して、健康で長生きできるように心を配り(ペット飼育書から見た飼い主の意識と教養)、亡くなった後は、その魂を慰めるために、供養塔を建立しています。慰霊碑や供養塔は日本人の身近にいたすべての動物から鳥、昆虫、魚類に対して作られ、人が飼育していない野生動物や害虫さえも、供養の対象として尊重しました。

■慰霊碑ナンバーワン動物は馬

最も多いのは使役動物だった馬の碑で、馬魂碑(埼玉県入間郡)、愛馬追悼碑(静岡市)など全国ほぼすべての都道府県で、馬供養塔が存在します。軍馬を慰霊する軍馬忠魂碑や、日露戦争に従軍して亡くなった馬の日露戦役従軍馬頭観音(長野県波田町)、日支事変殉難軍馬之碑(北九州市)など、特定の目的で人の役に立った馬の碑も、作られました。

軍馬慰霊塔は全国各地で見ることができます

軍馬慰霊塔は全国各地で見ることができます

農耕に役立った牛は牛魂碑(静岡市)、畜魂碑(前橋市)など単独で建立されたり、馬と一緒の牛馬供養塔が目立っています。飼育場所も重なるため、慰霊碑もまとめて作られたのでしょう。沖縄では水牛を使っていたので水牛之碑(八重山郡)でした。口蹄疫でたくさんの牛が殺処分された時は口蹄疫慰霊碑(福島県西郷村)も建てられました。

■捕鯨した後も大切に弔った

使役動物といえば、養蚕の盛んな土地では蚕の供養塔や、伝書鳩慰霊碑も作られました。アンゴラウサギが軍の衣料用に使われた時は、軍兎アンゴラ供養塔(駒ケ根市)が。捕鯨の盛んな地域では捕鯨八千頭精霊供養塔(室戸市)があり、捕獲したクジラの霊を弔いました。

蜜蜂供養碑(高松市)、蜂塚(熊本市)などハチの供養碑も多く、大切な昆虫として供養されていました。昭和や平成になってから建立された、比較的新しい碑もあります。

使役動物以外に、ペットとして大切にされてきた犬(老犬神社)、猫(猫地蔵)、鳥類のほか、野生動物の狸、鹿、猿、動物以外に人気のあった飼育動物の鯉や金魚、カメに加えて、貝の卵の「海ほうづき」供養塔も建立しました。身近にいたほとんどすべての生き物に対して、供養塔があり、人と同じように魂のある生き物として考えていた様です。

■愛する動物に心を込めて作った碑

特に大切に飼育していたペットが亡くなった後、感謝と記憶を残すために建立された碑は枚挙にいとまがありません。江戸時代に世界で初めて動物愛護精神に則った犬の飼育書「犬狗養蓄傳(いぬくようちくでん)」を書いた暁鐘成(あかつきのかねなり)は、自分の命を救ってくれたシロのために石碑をつくりました。

鐘成が愛犬シロといっしょに奈良へ向かっていたところ、刀を持った盗賊が表れます。シロは鐘成をかばって守り、盗賊に切り殺されてしまいます。命拾いをした鐘成はシロの遺体を持ち帰って大切に弔いました。主人を守った義犬の碑として、大勢の人が手を合わせに訪れたそうです。

夏目漱石は猫や小鳥などを飼育していましたが、可愛がっていたペットが亡くなった後に塚をつくっています。東京都新宿区弁天町にある猫塚は、石を横に重ねた塔のような形の塚で、石の数は漱石が飼育していたペットの数と同じであるという研究者もいます。漱石なりの、動物に対する感謝と慰霊の表れでしょう。

河竹黙阿弥愛猫塚(東京都世田谷区)は、江戸時代末期から明治の戯曲狂言作者、河竹黙阿弥が愛した飼い猫の太郎の塚です。黙阿弥亡き後、娘の糸が建立しました。塚には「十九年わずか二日の初夢を 見果てぬ猫の名も太郎月」と記されています。

面白いのはゴキブリ(護鬼佛理天)や白アリ、イナゴ(螽蝗衆虫供養)、ヘビトンボ(孫太郎虫供養碑)、ムカデ(百足供養塔)など、人に害を及ぼすような昆虫に関する供養塔もあります。害虫であっても、人と同じ魂をもった生き物であり、亡くなった後はきちんと霊を弔うべきだと考えたのです。

■雀を供養していない雀塚

かつての炭坑の街、福岡県飯塚市にはガス漏れを知らせるために飼育されていたカナリアやメジロなどの小鳥を供養する塚がありました。小鳥がガスに反応して騒いだり、止まり木から落ちる姿を見て、作業者が危険を察知し、避難しました。

鳥の塚は多く、ローラーカナリアの鳴き合わせを競う試合を行ってきた団体が、カナリアのための鳥塚を建立したり、鷹狩に使ったハイタカのための供養塔も残っています。鵜飼の鵜や、ウミネコ供養碑もありました。中でもユニークなのが雀塚で、実は雀の供養塔ではありません。

東京都北区にある石塔は文化14(1817)年、建立したもので、雀の供養塔のように見せて、幕府の言論統制を非難した石碑です。蜀山人(太田南畝)の狂歌が彫られており、「群雀 騒ぐ千声も 百声も 鶴の林の 鶴の一声」と書かれています。雀の供養碑だと主張すれば、罰せられなかったのでしょうか。また、東北では雀塚という名前で、餓死した子供の供養塔が作られた事例もあります。

■命あるものは平等に尊いと考えた日本人

縄文時代の遺跡には、動物をていねいに埋葬した跡が見られます。石碑や塚として残さなくても、人々は亡くなった動物をきちんと始末して、弔うという気持ちをもっていました。自然の中に神様を見出した日本人は、命ある生き物はすべて、大切な存在と考えていたのです。

多摩動物公園内にある慰霊塔には写真も飾られている

多摩動物公園内にある慰霊塔には写真も飾られている

だからこそ、人間のために命を犠牲にしてくれた動物に対しては、きちんと供養する必要がありました。日本中の大学病院で、実験動物に対する慰霊碑が建立されています。動物園にも必ず亡くなった動物の慰霊碑がありますが、世界でもこんなことをする国民はほとんどいません。日本人が生き物を大切にしてきた証拠のひとつとして、次世代にも大切に伝えていく必要がありそうです。

文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

写真/木村圭司

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