6月18日の朝、大阪北部を震源とする最大震度6弱の地震が近畿地方一円を襲いました。事態は予断を許さない状況ですが、刻々と報じられる被害状況をテレビやネットで目の当たりにして、「備え」について改めて考えさせられている人は多いでしょう。
備えあれば憂いなし。これは人間の避難のみならず、ペットの避難にもいえることです。
地震や豪雨など、様々な災害と隣り合わせに暮らす私たち日本人。人はもちろん、動物家族と一緒に暮らす人には、人の避難のみならず、動物の避難も想定に入れて行動しなければなりません。
備えがなくていざという時に愛する動物家族と離れ離れになってしまわないよう、今一度考えてみたいと思います。
災害時、ペット同伴で避難をする人は少なくありません。
熊本地震の際には、3.11の教訓から、ペット同伴で入れる避難所が設けられたり、現地の獣医師たちや動物ボランティアの活躍もあったりして、多くのペットが難を逃れることができました。
みなさんの中には、実際にまだ被災による避難を経験したことがないという人のほうが多いと思いますが、ペットを連れて逃げる為にどんな用意が必要か、いまいちど確認しておきましょう。
わさびちゃんちの避難体験
ペットといっても、犬や猫、うさぎ、鳥など様々ですが、今回は複数の猫を飼っている「わさびちゃんち」を参考に、猫との避難に絞って考えてみたいと思います。
2014年の9月、北海道が豪雨に襲われた際、避難勧告発令地域にあったわさびちゃんちも避難を余儀なくされました。当時、わさびちゃんちには、インコのぼーちゃん、ゴールデンレトリーバー(犬)のぽんちゃん、飼い猫の一味ちゃんとつゆちゃん、当時里親募集中だったでんすけとえくぼに加え、風邪ひきの保護子猫3匹という大所帯でした。
父さん、母さんは動物家族たちを移動用のキャリーやケージに入れ、それぞれ運転する2台の車に分散してみんなで避難所へ向かいました。父さんが載っていた車のトランクが比較的広かったため、ケージごと入れることができました。父さんと母さんは動物家族を車に残したまま一旦は避難所に入りましたが、みんなのことが心配になり、すぐに車に戻って一緒に一夜を過ごしました。
この時は災害事態が大事に至らず、念のための避難だったこともあり、動物家族をキャリーに入れることにもさほどの混乱はなかったそうです。翌朝には自宅に戻ることもできました。
訓練と見直しでブラッシュアップ
でも、これを機会に、母さんは動物家族との避難について真剣に考えるようになったそうです。それまでにも災害用にすぐに持ち出せる「避難袋」は、人間用と動物用と用意してありましたが、改めて中身をチェックしたそうです。
北海道に住むわさびちゃんちでは、車での移動を想定して、揺れる車の中では足元が不安定なメタル製のケージのかわりに、ポータブルキャリーを導入しました。簡単に洗えるビニール製で、普段は小さくたためて軽く、広げると猫が3,4匹はゆったり入れる大きさのケージになります。
大型犬のぽんちゃんもゆったり入ることができました、側面がメッシュになっており、通気性も良く、中の様子もよく見えます。
このポータブルキャリーの収納袋には、水やキャットフード(ドライ、ウェット)、猫用トイレ容器、猫砂、猫用おやつ、ペットシート、ゴミ袋、水のためのトレイなども入れられます。ウェットを食べ終わった後の空きトレイが利用できるので、トレイは水用だけです。
その後、幾度かの見直しを経て、リードや猫用ハーネス、乳飲み子の保護子猫がいることも想定して子猫用のミルクや哺乳瓶なども加えました。
水用のトレイもより簡易的なものに変更。また、できるだけ荷物を少なくするため、人間用の非常食やマッチ、ライターなども猫用避難袋に加えました。
新聞紙やビニール袋、トイレ用品などは別の袋にまとめて入れてあります。
わさびちゃんちでは、こうした避難袋を車の中、地下の部屋、そして玄関にふたつ置いて、いざという時にどれかひとつでも持って行けるようにしてあるそうです。
衣類収納袋の意外な使い途
また、旅行用の衣類収納袋も複数用意してあり、家のあちこちに置いてあります。地震などで猫たちがびっくりしていつもようにスムーズにキャリーに入ってくれないことを考えて、さっと猫の頭からかぶせて捕獲し、口を紐で縛ってとりあえず連れ出せるようにするためです。
洗濯袋のようにメッシュや網目になっており、通気性は心配ありません。愛猫を動物病院に連れて行く時などに洗濯ネットを使う人も多いかと思いますが、実際に避難訓練をしてみたところ、チャックよりも紐で縛るタイプの方が、素早く仕度できたそうです。
一緒に避難できるペットの頭数は?
筆者は以前、日本動物愛護協会に、ペットを飼う場合には何匹までが妥当か、問い合わせたことがありました。すると、家族構成や住まいの環境(マンションか一軒家かなど)などで状況が異なるため一概にはいえないものの、「災害時にその家の大人の住人が自分の避難具を持った上で、運ぶことができるだけの頭数」を限度とした方が良い、との返答がありました。
「大人の住人」というのは、高齢者や子供の手や動力は数に数えないということです。人間家族の命、ペットの命、そして自分自身の命に責任を持てる数、ということになるかと思います。
保護活動をしているわさびちゃんちでは、どうしても複数の保護猫がいる場合を想定しての準備となります。でも、そうではない家庭では、自分が責任を持てる数のペットまでしか飼わない方がいいでしょう。
すでにたくさんペットがいるという人は、改めてみんなをどう避難させるか考え、様々な状況を想定して訓練をして、足りないもの、不要なものを再検討した方が良さそうです。
災害の規模の大きさやその時々、それぞれの地域の状況、そしてどんなペットが何匹一緒に避難するかによって事態は異なります。答えはそれぞれの家庭で模索してしか見つけることはできませんが、今回ご紹介した「わさびちゃんち」の避難グッズがヒントになれば幸いです。
文/一乗谷かおり
※2016年11月公開の同名記事を改筆のうえ再掲載しました(編集部)
■わさびちゃんファミリー(わさびちゃんち)
カラスに襲われて瀕死の子猫「わさびちゃん」を救助した北海道在住の若い夫妻。ふたりの献身的な介護と深い愛情で次第に元気になっていったわさびちゃんの姿は、ネット界で話題に。その後、突然その短い生涯を終えた子猫わさびちゃんの感動の実話をつづった『ありがとう!わさびちゃん』(小学館刊)と、わさびちゃん亡き後、夫妻が保護した子猫の「一味ちゃん」の物語『わさびちゃんちの一味ちゃん』(小学館刊)は、日本中の愛猫家の心を震わせ、これまでにも多くの不幸な猫の保護活動に大きく貢献している。
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