空前の猫ブームといわれる昨今。でも、猫の生活や行動パターンについては、意外と知られていないことが多いようです。人間や犬の行動に当てはめて考えて、まったく違う解釈をしてしまっていることも少なくありません。昔から猫を飼っているから猫の性格や習性を熟知していると思っていても、じつは勘違いしていたということが結構あるようです。
そこで、動物行動学の専門医・入交眞巳先生(日本獣医師生命科学大学)にお話を伺いながら、猫との暮らしで目の当たりにする行動や習性について、専門的な研究に基づいた猫の真相に迫っていきます。
猫を飼い始めて、しばらくすると「1匹だけじゃ寂しいんじゃないか」、「友達や兄弟がいたら猫同士で遊ぶかな」とか考えて、2匹目を飼いたいと思うようになる人も多いかと思います。
その一方で、最初の子が新入りさんに嫉妬しないかとか、相性が悪かったらどうしようとかいった不安もあるでしょう。
そんな時、以前お話しした猫の持つ学習能力を応用すれば、先住猫さんが比較的スムーズに新しい家族を迎え入れることができるのです。
ポイントは、少しずつ距離を縮めること。新しい家族を迎えた場合、先住猫さんの前にいきなり新入りさんを連れて行くのではなく、最初はちょっと離れたところで見せて、双方におやつをあげながらなでたりして、「あの子は怖いやつじゃないよ」と思わせることが重要です。
そうやって徐々に距離を縮めていけば、一緒に暮らせるようになります。猫の学習能力を活用して、相手の猫がいても大丈夫、いやむしろおやつさえもらえる、と覚えてもらうことで、関係がスムーズに構築できるのです。
■猫は人間が思う以上に素直な存在
とはいえ、猫にも相性の問題があります。
大の仲良しになる猫たちもいれば、顔を合わせればうーうーシャーシャーうなりあって大喧嘩。仲良し猫同士がするアログルーミングなんて夢のまた夢、とてもじゃないけど一緒には暮らせないという関係になることもあります。
でもたいていは、お互いの存在に慣れれば、同じ家の中にいてもさして気にしない程度の仲になれるかもしれません。
相性と猫同士のコミュニケーション能力は猫次第なので、人間は猫に様子を見ながらゆっくり導入してあげる、相手の存在を恐怖と不安で満たさない、ということを心がけるくらいでしょう。
他の猫を迎えることで猫同士が嫉妬し合って、関係が陰湿なものになる、と心配な面もあるかもしれません。
嫉妬という言葉は、何か大切なものを失うことを恐れたり不安に思う気持ちを意味しますが、人間の場合、往々にして嫉妬+恨み、嫉妬+嫌悪感など、複合的な感情となることがあります。
猫はというと、恐れや不安はありますが、それに連動して新しいやつを連れてきた人に対する怒りだとか嫌悪感といった感情は起こりません。
単純に見知らぬ猫が自分の安心できる場所(コアエリア)に入ってきた不安と恐怖、相手とのコミュニケーションがうまくいくかどうか、の問題になるようです。
わかりやすく表現してみましょう。飼い主さんが新しい猫を連れてきたとします。子猫ならなおさら、いろいろなお世話もあるでしょうし、大人の猫であっても新しい環境に馴れてもらうために飼い主さんなりに気を配ります。
そんな時、先住猫は「ボク、遊んで欲しいな」「ちょっと寂しいな」と思うかもしれません。でも、「あいつが来たせいでボクは遊んでもらえなくなった、だからあいつが憎い」という風にはなりません。
※次ページ>>「猫のペースにあわせてゆっくりと」