「一軒家の実家は分けにくいもめやすい財産の代表格です」と曽根さんは語る。
だからこそ結城さん兄弟は、とりあえず共同名義にするという安易な方法を選択してしまったのでしょう。共同名義のデメリットは、実家を売却したくなったときや、増改築や建て替えするときに、共同所有者のうち1人でも反対があると実行に移せないことがある。今回は兄達の合意を得られてよかったが、そうならないケースのほうが多いのだ。このように共有名義にしてしまえば、分けたことにはなれないのが現実だといえる。
幸い、結城さんは実家を残して、そこに住むということについては、兄達から同意を得た。しかし、共有名義のまま住んでしまうと、権利のある兄たちには財産とならないため、不満が噴出して、争いになることは容易に想像できる。
「この場合の解決方法として、贈与、遺贈、売買の3つありますが、贈与も遺贈も兄達には対価が入りませんので、理解を得ることは難しいといえます。よって、選択肢は売買ということになるでしょう」(曽根さん)
ここで知っておきたいのは、「相続」と「遺贈」の違いだ。
「相続」とは、亡くなった人が所有していた財産を法定相続人に移転するということ。
「遺贈」とは、主に相続人以外の人や団体に遺言によって財産を渡すことを指す。
「結城さんのケースは、、お兄さんたちに実家の1/3の価格を支払う“売買”で解決することにしました。ここで問題になるのは価格の決め方です。不動産の場合、路線価を参考に決めますが、結城さんの実家の周辺は、不動産の時価評価は路線価よりも下回っているエリアでした。そこで今回の売買価格の参考にしたのは、固定資産税評価額です。路線価評価の70%程度とされていて、お兄さんたちにも理解が得られ、結城さんの負担も多少軽減されます。これで3者の合意が得られました。」
結城さんの実家は、路線価の評価では2500万円だったが、固定資産税の評価額では1800万円。建物は築年数が経っているため、価格はなしとした。
「結果的に、結城さんは住んでいた自宅マンションは売却して600万円ずつを兄に支払いました。自宅を売却した結城さんには税金免除の特例がありましたが、共有不動産を売ったお兄さんには譲渡税がかかるので、確定申告をして納税が必要です。さらに兄の持分3分の2を買った側の結城さんには、不動産取得税がかかり、納税が必要になります。お母様が亡くなった時に先を見越した話し合いをし、実家は結城さんが相続し、兄2人に代償金を払っていれば、譲渡税も取得税もかからず、登記費用も1/5で済んだのに……と思います」
とりあえずということで、安易に実家を共有することはお勧めできない。住まない実家であれば売るときに税金がかかり、共有後に買い取るとなるとそれぞれに税金の負担があり、余分な税金の負担は少なくない。最終的な相続の仕方を決めてから手続きをすれば無駄な費用や税金がかからない。
どうすべきか迷ったら不動産に詳しい専門家に相談するのがよいだろう。
監修・曽根惠子さん
夢相続 代表。PHP研究所勤務後、不動産会社設立し、相続コーディネート業務を開始。1万3000件以上の相続相談に対処、感情面、経済面に即したオーダーメード相続を提案。『相続はふつうの家庭が一番もめる』(PHP研究所)、『相続に困ったら最初に読む本』(ダイヤモンド社)、『相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル』(幻冬舎MC)ほか著書多数。
取材・文/沢木文
イラスト/上田耀子