あらゆるパターンの相続トラブルを目撃してきた相続問題の専門家・曽根惠子さんから、これまであった相続トラブルの実例と、その解決策をご紹介いただく当企画。
親のことはもとより、自分自身も“終活”を意識する年齢にさしかかっているサライ世代にとっては大切な知識である。後戻りできない骨肉の争いを避けるためにも、ぜひ読んでおいてほしい。
【相続事件簿06】未成年の孫が相続人の場合はどうしたらいいのか?
今回の相談者は、86歳の父親を亡くして相続手続きを進めることになった田中康太さん(63歳・男性)。康太さんは3兄弟の長男。ただし父親より先立つこと10年前に、末弟の三男が49歳で亡くなっている。
亡くなった父親は、3兄弟の中でも、とりわけて末っ子の三男には目をかけていた。
「神様に愛される人は、早くに亡くなってしまうというのは本当なんですね。亡くなった弟は、親思いで優しかった。ガンが見つかったときも、父親は貯金の大半を使って、さまざまな治療を試みましたが、半年も経たずに死んでしまったんです」(康太さん)
そんな父親の主たる遺産は、評価額2000万円の埼玉県内にある自宅と預金2000万円で、合わせて4000万円になる。しかし父親にはもうひとつ所有不動産があった。三男家族が住んでいるマンションだ。
「弟家族が住むマンションには父親の名義もあることがわかりました。このマンションは父親が半分お金を出し、半分は弟がローンを借りて購入していました。当然、弟が亡くなってからも弟家族(妻と2人の子ども)はそのマンションに住んでいます。
ちなみにもう半分の名義は、弟の妻です。弟が亡くなったときに、彼女が弟から相続しました。ローンも残っていましたが生命保険で完済されました。いまは返済がないので、不安なく生活できているようです。」
マンションの評価額は1500万円なので、父親の持ち分は半分の750万円となる。よって父親の相続財産の総計は4750万円となる。
相続人は、母親(83歳)、長男の康太さん、次男の弟さん、そして亡くなった三男の子供2人(代襲相続人)の5人となる。この場合、相続税の基礎控除は6000万円となるので、申告は必要ない。
もし父親が遺言書を残していたら、それが優先されるのだが、遺言書はなかった。そこで相続人全員で分割協議をする必要が出てきた。
協議の結果、自宅と預金の半分の1000万円は母親が、康太さんと次男が各500万円、三男の子がマンションを2分の1ずつ相続することで話し合いはついた。しかし、ここで問題が生じた。三男の2人の子どもの年齢が、息子が19歳、娘が15歳と、いずれも未成年だったのだ。
分割の合意はできているので、すぐにでも遺産分割協議書を作り、財産の名義変えもしていきたいところだったが、未成年者の場合は、本人が遺産分割協議をすることはできない。
原則として、親が相続人でない場合は、親が子どもの代理人になることができるが、弟の子どもは2人とも未成年。母親が代理人になれるのは1人のみと法律で決まっているため、もう1人の代理人は、家庭裁判所に特別代理人の選任を申請する必要がある。
特別代理人は親族でも、他人でも構わないが、家庭裁判所への書類申請の費用や手間がかかり、時間も必要となる。
さて、こんなケースではどうするべきだろうか。
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