あらゆるパターンの相続トラブルを目撃してきた相続問題の専門家・曽根惠子さんから、これまであった相続トラブルの実例と、その解決策をご紹介いただく当企画。
親のことはもとより、自分自身も“終活”を意識する年齢にさしかかっているサライ世代にとっては大切な知識である。後戻りできない骨肉の争いを避けるためにも、ぜひ読んでおいてほしい。
【相続事件簿09】父の死後、同棲中の男性が……娘の相続はどうなる?
今回の相談者は、三田紀子さん(仮名・56代・銀行勤務)だ。彼女の父親は15年前に亡くなり、母親(82歳)は一人暮しをしているという。
しかし、この12年間の母娘のコミュニケーションは、電話や近くのファミレスで会う程度。母と娘によくある、密接な関係ではないという。
「私の家は、母親の家から徒歩30分程度なので、いつでも行けるのですが、父が亡くなってから3年後に、母がある男性と同居を始めたのです。それで行きにくくなってしまって……」と語る。
相談者・紀子さんには6歳年上の兄がいる。IT関連企業を経営するやり手経営者で、父親の相続の時もかなり有利な条件で財産を譲り受けていたのを、横眼で見ていた。
「このときに、父の財産を巡って、母と意見が対立し、骨肉の争いになりました。父は遺言書を残していなかったのです。あのときの相続をめぐる争いはすごかったです……罵る兄、母は兄に向かって食器を投げつけて大乱闘……近所を巻き込む大騒ぎになりました。それが原因でかつての実家である、先祖代々の土地に住みにくくなり、売ることになりました。もちろん、そのお金の大半は兄が受け取っていました。兄はそのお金を元手に、沖縄で会社を立ち上げ、家族で移住してしまったんです。母とも私とも一切の連絡をとっていません」
その後、紀子さんは、父の死と実家の引っ越しなどで落ち込む母の面倒を見てきた。
「だからこそ、母の時は、私の方が多くもらいたいんです。息子2人を私立大学に出して、私達夫婦の老後費用はほとんど残っていません。母に対して“オマエはすぐに死ね”とまで言った兄に、母の財産を渡したくないというのが正直な気持ちです。でも、きっと兄は、地元の友だちも多いので、母が亡くなったら聞きつけて来ると思うんですよね。理論派で弁も立つから、私には絶対かなわない相手です。それがとても不安です」
不安要素は兄だけでなく、母親と交際し同棲中の男性もそうだという。相手の男性はお金に困っている様子がないとはいえ、母親が住むマンションに転がり込んできた同世代の男性だ。
「母親だから、娘には何でも言ってもらいたいと思うのですが、肝心な財産のことやこれからのことを母親の口から言うことはなく、私が聞いても、はぐらかしてしまい、教えてくれません。このままでは、通帳などの重要書類もどこに置いてあるかわからないので不安です。母の財産は3LDKのマンションと預貯金なのですが、その額がいくらかもわかららないのです」
それでは曽根惠子さんのアドバイスを見てみよう。
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