あらゆるパターンの相続トラブルを目撃してきた相続問題の専門家・曽根惠子さんから、これまであった相続トラブルの実例と、その解決策をご紹介いただく当企画。

親のことはもとより、自分自身も“終活”を意識する年齢にさしかかっているサライ世代にとっては大切な知識である。後戻りできない骨肉の争いを避けるためにも、ぜひ読んでおいてほしい。

【相続事件簿11】
父親任せで対策なし!相続税1310万円と知ってパニックに!?

今回の相談者は三田和夫さん(仮名・60歳・男性)。2018年の年明け早々、85歳の父親が突然亡くなり、相続の手続きが必要になった。父親本人は「俺は100歳まで生きる」と日頃から言っていたため、遺言書はない。もちろん、家族は何の準備もしていなかった。

三田さんの父親の相続人は84歳の母親と、三田さん、50代の妹人で、合わせて3人だ。

「私自身、相続についてある程度の勉強はしていましたが、自分のことになると冷静な判断ができなくなりました。言葉は悪いですが、相続はちょっとした手続きの違いが大きな差を生むバクチみたいなもの。“なんとなくわかっているつもり”で手続きを進めることは、今後の人生を左右すると感じ、前に進めなくなりました」と三田さん自身は語る。

相続税がかかる場合の申告期限は10ヶ月。三田さんが曽根さんのところに相談に来たとき、残された時間はあと6か月間だった。

会社経営をしていた父親の財産は、不動産だけでも首都圏内に4か所あった。その内容は、両親が2人で暮らしていた都内の自宅、父親の荷物置き場となっている空き家のマンション。三田さん自身の自宅、妹の自宅、それに加えて那須塩原に別荘もあった。三田さん兄妹は、父親が所有する不動産を使用賃貸(無償で貸し借りすること)しているという。

父が所有する不動産の評価は、ざっと計算して1億1000万円。預貯金も3000万円あり、合わせて1億4000万円になる。相続税の申告が必要になる額だ。

「相続税の非課税枠は、“3000万円+相続人の人数×600万円”ですから、うちの場合は3000万円+3人×600万円=4800万円です。だから相続税の申告をしなくてはなりません」

この場合で試算すると、相続税は1310万円だ。

「そうなんですが、私達にはそれを支払う手持ちがありません。年をとってから授かった子供たちもまだ大学生。これから結婚などでもお金がかかるでしょう。ですからなるべく手元にお金を残しておきたいのです」

相続税をゼロにする方法はある。それは、配偶者控除控除という申請をし、配偶者(この場合、三田さんの母親)がすべてを相続すること。これなら1億6000万円まで相続税が非課税となる。しかし、配偶者税額軽減の特例を使うと、母親が亡くなった二次相続のときに相続税が高くなるという問題が発生してしまう。遺産分割を考える時には、二次相続まで考慮することが大切なのだ。

「母親も84歳です。そう遠くない将来に、私達が相続をする日が来るでしょう。その時に備えて何をすればいいか、どこから始めればいいか教えていただきたいのです」

それでは曽根惠子さんのアドバイスを見てみよう。

>>次ページにつづく

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