「このケースの場合、相続させる母親の意思を確認することが先決です」と曽根さんは言う。

最近の高齢者に多いのは、同居している恋人の意見を鵜呑みにして、遺言書を書いてしまうというケースだ。過度に財産を娘に隠す母は、もしかすると恋人に財産を渡すような遺言書を考えているかもしれない。そうならない前に、皆が納得するような遺言書や任意後見人の契約をしておく必要があるというのだ。

そこで気になるのは、よく聞く「成年後見人」と「任意後見人」の違いだ。

「成年後見人は、精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)で、判断能力が不十分な人が不利益を受けることがないように支援する人のことで、その立場が公的に証明されます。

任意後見人は本人に十分な判断能力があるうちに、将来判断能力が低下したときのために、あらかじめ自分で選んだ代理人(任意後見人)を準備しておく制度です。本人と任意後見受任者との間で内容を決めます。

いずれのケースにおいても、公証人役場で公正証書を作成する必要があります」(曽根さん)

依頼者・紀子さんの解決策としては、母親がトラブル回避のためにも、遺言書や任意後見人契約の必要性を感じてもらうことだ。そのために自治体で行われる相続関係のセミナーや、プロによる個別相談会などにお出かけ感覚で参加することがいいという。

「お父様が亡き後、自分の意思で生活をしてこられたお母様は、娘や周囲の人の意見をすんなりと聞くタイプではないでしょう。ですから、第三者や専門家からのアドバイスを受けられる状況を作り出すことが必要だと言えます。時間かかっても、母と娘と一緒に、相続のことを考えて対策をしておかないと、困ることになる可能性が高いです」(曽根さん)

母親が亡くなれば、何があっても兄との連絡を取ることが必要になる。だから紀子さんは、曽根さんのアドバイスを参考に、12年ぶりに兄に連絡取ったという。すると、歳月が感情を和らげており、思った以上に良好な感じで話を進めることができたそうだ。

今では兄と母の間を取り持ちつつ、自分たち家族にとって有利な解決策に向かって走り始めているという。

最後に曽根さんのアドバイスを聞こう。

「親子よりも身近な他人を頼るケースも多々あります。遠慮したり、見過ごしたりして安易に考えていると相続になって慌てることになりかねません。不安を解消しておくには、思い切って本人に切り出してみる事です。いきなりよりは、自治体の相談窓口や、専門家のサポートの活用がオススメです」

監修・曽根惠子さん
夢相続 代表。PHP研究所勤務後、不動産会社設立し、相続コーディネート業務を開始。1万3000件以上の相続相談に対処、感情面、経済面に即したオーダーメード相続を提案。『相続はふつうの家庭が一番もめる』(PHP研究所)、『相続に困ったら最初に読む本』(ダイヤモンド社)、『相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル』(幻冬舎MC)ほか著書多数。

取材・文/沢木文
イラスト/上田耀子

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