では、相続問題の専門家・曽根惠子さんに解説とアドバイスを伺いましょう。
「小規模宅地等の特例で、相続税は安くできますが、同居する松村さんが相続する内容の遺産分割が整わないといけません。妹さんに税額の違いを示して理解を得ておくようにお勧めします。
現実的に考えても、不動産は松村さんが相続し、妹さんは現金という分け方が合理的。ただし、それでは松村さんの取り分が多くなるため、父親の現金は妹さんが相続し、不足分は代償金を払うという方法があります。代償金の金額の決め方が難しいところですが、妹さんの希望も聞いて折り合いをつけていくようにします」
こんなケースに陥らないために、いったいどのように備えておけばいいのでしょうか?
「財産の大部分が不動産で分けにくいケースが、相続で揉めて、相続人全員が損をする代表的なパターン。これがこじれて、不動産を全て売却しお金を分けるというケースも少なくありません。深刻なトラブルを回避するには、お父様の生前から、よく妹さん夫婦と話し合うことをおすすめします。第三者を交えて冷静に話すといいですよ」
【今回の教訓】
「大損ケースは、話がこじれて調停に時間がかかり、きょうだい絶縁になった上に、せっかく親が遺した不動産を売り払って現金を分けるしかなくなる場合。そうならないために、早めの段階できょうだい間で話し合って、着地点を見つけておくべし」
※注1『小規模宅地等の特例』
配偶者や同居親族、自宅を所有しない子供が自宅を相続する場合や事業を継承する相続人がいる場合は、土地の評価減を受けられる制度。居住用宅地は330㎡まで80%減額、事業用宅地は400㎡まで80%減額できる。
※注2『遺産分割協議』
遺言書がない場合、相続人全員で遺産について、誰が何を相続するか決めるための話し合いを遺産分活協議という。
監修・曽根惠子
夢相続 代表。PHP研究所勤務後、不動産会社設立し、相続コーディネート業務を開始。1万3000件以上の相続相談に対処、感情面、経済面に即したオーダーメード相続を提案。『相続はふつうの家庭が一番もめる』(PHP研究所)、『相続に困ったら最初に読む本』(ダイヤモンド社)、『相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル』(幻冬舎MC)ほか著書多数。
取材・文/沢木文
イラスト/上田耀子