古来より“好事魔多し”と申します。

人生、幸せな日々が続いておりますと、何も煩わしい事、問題は起こらないものです。ところが、いざ身内に不幸な出来事が起こりますと、随分と煩わしく難しい問題が噴いて湧いてきます。「不幸な出来事が、突然やってきた」という方もおられます。しかし、サライ世代ともなれば、心のどこかで「いつか来る、やがて来る」と思っている事があるはずです。特に不幸な出来事に関わることは、「縁起でもない」と敬遠されがちなので、ついつい先延ばしにすることが多いようです。中でも、相続に関わることとなりますと、遺産分割、申告、納税など様々な手続きが必要になります。

そこで、アクティブシニアのライフサポートを行う株式会社ユメコム代表の橋本珠美が、豊富な経験や事例をもとにアドバイスを申し上げます。ここで、「相続」にまつわる基礎知識を身につけてください。

目次
相続税とは?
相続人とは?
相続税の控除とは?
相続税の計算方法
相続税の申告と納税期限
まとめ

相続税とは?

「相続」とは、被相続人(亡くなった人)の財産を法定相続人(財産をもらう人)へ引き継ぐことです。相続などによって、財産を取得した時に、その取得した財産に課される税金を「相続税」と言います。

相続財産は、「プラスの財産」だけではありません。被相続人が「借金を完済していない」「税金を滞納していた」など、いわゆる「債務」がある場合、「マイナスの財産」も相続しなければなりません。「マイナスの財産」が大きい場合は相続放棄という選択肢もありますよ。

相続人とは?

先ほどもお伝えした通り、相続とは人の死によってその人の財産や権利、義務が特定の人に引き継がれること。死亡した人のことを「被相続人」、財産などを引き継ぐ人のことを「相続人」といいます。

法定相続人の範囲について、把握しておきましょう。

・配偶者 → 必ず相続人になる
・血族  → 優先順位が高い人が相続人になる

被相続人の配偶者は、どのような場合においても法定相続人になります。

では、優先順位が高い血族はというと…
第1順位 子または代襲相続人
第2順位 両親などの直系尊属
第3順位 兄弟姉妹または代襲相続人

第1順位は子

「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」という言葉について、聞き慣れないかもしれませんね。例を挙げながら、わかりやすくご説明いたしましょう。

例えば、山田サライ(82歳)さんには、妻(78歳)と長男(45歳)、長女(41歳)がいますが、長男が孫を遺して亡くなってしまいました。その後、サライさんが亡くなり、サライさんの遺産の相続人は配偶者である妻、子である長女、そして亡くなった長男の子(サライさんの孫)となります。法定相続人である長男が亡くなっていた場合は、代わりに孫が相続するのです。これを「代襲相続」といいます。

第2順位は親、第3順位は兄弟姉妹

故人に子や孫がおらず、親がいる場合は、親が法定相続人。なお、配偶者と親がいる場合は、配偶者と親が法定相続人になります。

また、故人に配偶者、子や孫がおらず、親が亡くなっている場合は、兄弟姉妹が法定相続人になります。兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は、兄弟姉妹の子(甥・姪)が法定相続人になります。甥や姪が亡くなっている場合は甥や姪の子は法定相続人にはなりません。

第3順位の代襲相続は1代限りなので注意が必要です。

相続税の控除とは?

相続税は、すべての遺産にかかるわけではありません。基礎控除額、配偶者の税額軽減、非課税財産について、ここでは理解しておきましょう。

基礎控除額

遺産の総額が一定のボーダーラインを超えた場合、相続税がかかります。このボーダーラインのことを「相続税の基礎控除」といいます。基礎控除額の計算式は、以下の通りです。

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

配偶者の税額軽減

配偶者の税額軽減とは、実際に取得した遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。

1:1億6千万円
2:配偶者の法定相続分相当額

この配偶者の税額軽減は、配偶者が遺産分割などで実際に取得した財産を基に計算されることになっています。したがって、相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象になりませんので、注意が必要です。

非課税財産

国税庁が発表している相続税がかからない財産は、以下の通りです。

1:墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしている物
※ただし、骨とう的価値があるなど投資の対象となるものや商品として所有しているものは相続税がかかります。

2:宗教、慈善、学術、その他公益を目的とする事業を行う一定の個人などが相続や遺贈によって取得した財産で公益を目的とする事業に使われることが確実なもの

3:地方公共団体の条例によって、精神や身体に障害のある人又はその人を扶養する人が取得する心身障害者共済制度に基づいて支給される給付金を受ける権利

4:相続によって取得したとみなされる生命保険金のうち500万円に法定相続人の数を掛けた金額までの部分

5:相続によって取得したとみなされる退職手当金等のうち500万円に法定相続人の数を掛けた金額までの部分

6:個人で経営している幼稚園の事業に使われていた財産で一定の要件を満たすもの
※なお、相続人のいずれかが引き続きその幼稚園を経営することが条件となります。

7:相続や遺贈によって取得した財産で相続税の申告期限までに国又は地方公共団体や公益を目的とする事業を行う特定の法人に寄附したもの、あるいは、相続や遺贈によって取得した金銭で、相続税の申告期限までに特定の公益信託の信託財産とするために支出したもの

相続税の計算方法

ここまで「相続税」について、基本的な情報に触れてきましたが、気になるのは相続税が一体いくらかかるのか、ということですよね。具体例を挙げながら、ご説明しましょう。

<例>
被相続人(亡くなった方)の家族が妻と子2人(長男、長女)の場合、法定相続人は妻、長男、長女の3人になります。

(遺産)
・預貯金2,500万円
・自宅3,200万円
・死亡保険金1,000万円  
合計6,700万円

・基礎控除額:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
・死亡保険金の非課税枠*1:500万円×3人=1,500万円

*1:死亡保険金の非課税枠は保険金額を上限とします。今回の場合は死亡保険金が1,000万円のため、非課税枠は1,000万円になります。

非課税枠=500万円×法定相続人の数

上記の家族の場合、
1:課税対象になる遺産の総額6,700万円-死亡保険金1,000万円=5,700万円
2:5,700万円-基礎控除額4,800万円=900万円

900万円を各法定相続人に分配してから、分配金額に応じた相続税額を算出します。別途、相続税を軽減させる特例もありますので、活用できるかどうか確認が必要です。

相続税の申告と納税期限

相続が開始(被相続人が亡くなった日)すると、被相続人に関する様々な手続きや届け出をする必要が出てきます。悲しむ時間さえなく、遺言書の確認、遺産分割協議、相続税の申告、不動産の名義変更などそれまで経験したことのない作業に追われることに…。その時に、「前もって準備しておけばよかった」と後悔しても遅いもの。

ここでは、相続が発生したらする必要のある主な手続きについてご案内します。

納税期限

相続の申告・納税は10か月以内に行わなければなりません。そして、相続税は原則現金納付。ですから、現金が不足する場合は延納や物納など猶予の手続きや売却などの検討も必要になってきます。そうしたことを考えても、早めの準備が肝要です。

相続税がかからなくても申告が必要?

相続が基礎控除以内である場合、申告は不要となります。しかし、相続税がかからなかったとしても、申告が必要なケースがあります。それは、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などの適用を受ける場合です。これらの場合は、申告をしましょう。

知らないで納税が遅れてしまうと「延滞税」、誤って少なく申告し税務調査により修正申告を行った場合は「過少申告加算税」、申告し忘れ、税務調査により提出した場合は「無申告加算税」、申告書を提出したが故意に財産を隠した場合「重加算税」がそれぞれかかってしまうので、注意が必要です。

まとめ

いかがでしたでしょう。相続に関する税金の話、そして相続税の計算方法、申告の方法、納税期限までを、わかりやすく解説いたしました。この記事を読んで「相続」って、けっこう面倒な手続きが多いなあと思われた方も多いことでしょう。
しかし、古から「好事魔多し」と申します。事が起こった時を想定して、普段から調査や準備をしておくことをお勧めいたします。この機会に、お取引のある金融機関や遺産相続のコンサルティング会社などのサービスカウンターを訪ねてみてはいかがでしょうか?

●構成・編集/末原美裕・貝阿彌俊彦(京都メディアライン・http://kyotomedialine.com

●取材協力/橋本 珠美(はしもと たまみ)

2001年4月、株式会社ユメコムを起ち上げ、介護・福祉の法人マーケットを中心に、誰もが高齢社会を安心して過ごすためのコンサルティングを始める。
また「高齢者と高齢者を抱える現役世代」のための相談窓口「シニアサポートデスク」「ワーク&ケアヘルプライン」を運営し、高齢者やそのご家族の幅広いお悩み(介護・相続・すまいなど)にお応えしている。
相談窓口の事例と自身の経験(ダブルケア)を取り入れたセミナー活動は好評を得ている。

株式会社ユメコム(https://www.yumecom.com

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。
個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

 

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