文/鈴木拓也

親子の会話は難しい……。

これは、親が高齢者、子どもがいい年の中高年になっても変わらないようだ。筆者も、帰省するたびに、老親との会話のギクシャクぶりに苦労している。こうした悩みを持つ子どもは少なくない。

しかし、子ども側が、ちょっとの配慮をすることで、驚くほどコミュニケーションは円滑になる。そう説くのは、訪問看護・リハビリのデイサービスを提供する株式会社ゴルディロックスの代表、萩原礼紀さんだ。

萩原さんは、著書『歳をとった親とうまく話せる言いかえノート』(ダイヤモンド社 https://www.diamond.co.jp/book/9784478118962.html)のなかで、豊富な例をもとに、親との会話がうまく運ぶコツを記している。

今回は、本書からそうしたコツの一部を紹介しよう。

反発をおぼえるアドバイスは「受け流す」

親は、子どもに対し、昔の価値観・常識にしたがったアドバイスをしてくることがある。それが、現代の主流の考えとそぐわず、子どもとしてはカチンときやすい。それで思わず、「なにを言っているの。もう、そういう時代じゃないんだから」と返してしまう。

よかれと思ってしたアドバイスが否定された親は、イヤな気分になるだろう。それどころか、親子喧嘩の発端ともなりかねない。

では、どのような返答がいいのだろうか?

本書では、次のように解説されている。

こんなときは「たしかに、昔はそうだったよね」と受け流すのがおすすめです。なぜなら「否定」や「肯定」などの感情が一切含まれていないニュートラルな返しであり、相手を不快な気持ちにさせないからです。(本書33pより)

さらに萩原さんは、親には自分の考えをまっすぐに伝える必要はないともいう。いさかいの種を蒔くよりは、受け流して無難に済ますのが吉と出るわけだ。

親に「助けてもらう」意識が大事

親の煮え切らない態度を見ると、思わず「どうしたいの? はっきりしてよ」と言ってしまいたくなる。

それまでの経緯がどうあれ、この言い方では会話の行き先は穏やかなものとはならない。

萩原さんは、どんなときも親の気持ちに寄り添うことが大事と諭す。この場合は例えば、「ごめん言いづらいよね。でもお父さんの考えを教えてもらえると助かるな」というふうに伝える。つまり、おせっかいな助ける側から「助けてもらう側」になる。萩原さんは、こう続ける。

そうすると、親の意識は「子どもが困っているんだから、自分が助けてあげなきゃならない」に切り替わります。その結果、冷静な心持ちで、自分の考えを精一杯伝えてくれるはずです。落ち着いて話をしたいときに使いたい伝え方です。(本書41pより)

「どうしたいの? はっきりしてよ」に限らず、「要求・指示・命令・依頼」のトーンの言葉はなんであれ、避けたほうがベターだとも。こうした言い方を萩原さんは、自分のエゴを通したいがための「自分メッセージ」と呼んでいる。心がけるべきは、相手の心の動きに合わせて使う「相手メッセージ」。言われた相手が、どう感じるかを念頭に置きながら、会話を重ねることで、親も心を開いてくれる。

言葉だけでなく表情や声のトーンで感謝を表現

帰省するたびに実家にモノがたまっていて、「このままではゴミ屋敷になるのでは」と案じてしまう。それで思わず、「部屋が散らかっているよ。ちゃんと片づけないとダメじゃない」と言ってしまうが、これではNGだ。

ここは、「片づけ、一緒にやろうか」と一声かけるのが正解と、萩原さん。

親は、「自分のことを心配してくれた」「気遣ってくれた」と受け取り、片づけに前向きになるかもしれない。少なくともこう言われて、うれしく思わない親はいない。

ところで、親とのコミュニケーションは、なにも言葉のやりとりだけにとどまらない。表情や身ぶり・手振りといった「非言語コミュニケーション」も、話す内容と同じくらい大事な要素となる。

例えば、実家に行った際に親から食事をいただいたとする。「おいしいね」という言葉も、そっけない言い方か、明るく肯定的な言い方かで、親の受けとり方も変わってくる。上の片づけでの例でも、辛気臭いよりは、ポジティブさが顔に出ているほうが、断然いい。

萩原さんは、感謝の気持ちを伝えるなら、「表情や声のトーンにも感謝の心を乗せましょう」と力説する。そうした、ほんのちょっとの心がけで、親はうれしく感じるものである。

親の「心理的な背景を理解」する

本書は、親からの言葉に対し、子どもとしてどう返答すべきかについても触れている。

例えば、「孫にも会いたいから、もっと頻繁に会いに来てよ」と投げかけられたひと言。

実家は遠いし、多忙でそうもいかないという場合、どう切り返すべきだろうか?

萩原さんは、「少し仕事が忙しくて。5月は時間ができるから、その時に会えたらうれしいな」といった感じで返すようすすめる。ポイントとなるのは、「YES/NOで返答しない」こと。つまり、「当面無理だなぁ」とはっきりとは言わず、事情があってしばらくは行けないと言うにとどめる。それなら、親としてもすんなり納得がいきやすい。

コツは、「親の言葉にある心理的な背景を理解」すること。親は、単にわがままで言っているのではなく、子どもや孫に会えてないから寂しいという心情を察すれば、自然と親を思いやる言い方になるはずである。

また、萩原さんは、子どもが「看取者(かんしゅしゃ)」になりきることが、親とのコミュニケーションで「最重要」であるとも書いている。ここでいう看取者とは、「一歩引いたところから、親の様子を観察し、適切な対処・コミュニケーションに努めること」を意味する。この視点を持つことで寛容な気持ちも生まれ、親との交流もストレスが減り、居心地のいいものになるという。

* * *

本書では、この記事で取り上げた数例を含め、80もの伝え方の良い例・悪い例の解説がなされている。親との関係を、会話を糸口にして実りのあるものにしたい方には、必読の1冊と言えそうだ。

【今日の暮らしに役立つ1冊】
『歳をとった親とうまく話せる言いかえノート』

萩原礼紀著
定価1650円
ダイヤモンド社

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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