
日本酒を嗜む際に気になるのが「度数」ではないでしょうか。アルコール度数の高さから敬遠される方もいらっしゃいますが、実はその度数にこそ日本酒の奥深い魅力が秘められています。日本酒を心から楽しむためにも、度数について正しく理解しておくことが大切です。
文/山内祐治
目次
日本酒の平均度数はビールやワインより高めの15~16度
日本酒のアルコール度数が高い理由は並行複発酵にアリ!
焼酎度数は蒸留により25度前後と日本酒より高度数
ワインのアルコール度数は日本酒より3~4度低め
“日本酒度数”と辛口の関係性。甘辛の判断基準
日本酒度数が低い、「低アルコール」製品が人気の現状
まとめ
日本酒の平均度数はビールやワインより高めの15~16度
日本酒のアルコール度数は、他の醸造酒よりも高めに設定されています。一般的な醸造酒の度数を比較してみると、ビールが5~6%程度、ワインが11~14%程度であるのに対し、日本酒は平均15~16%となっています。
低いものでも14%、高いものになると17~18%に達することもあります。主要な醸造酒の中では、日本酒は比較的高い部類のアルコール度数に位置づけられます(清酒は法令上22%未満)。
この度数の違いは、日本酒の味わいの深さにも直結しています。度数が高いということは、それだけ濃厚で力強い味わいを楽しめるということでもあるのです。
日本酒のアルコール度数が高い理由は並行複発酵にあり
なぜ日本酒のアルコール度数が他の醸造酒よりも高いのでしょうか。その理由は「並行複発酵」と呼ばれる日本酒特有の醸造方法にあります。
ワインの場合、ぶどうジュースに含まれるブドウ糖を酵母が食べてアルコールに変換します。ビールの場合は、麦を一度甘くしてブドウ糖を作り、それを酵母がアルコールに変えていきます。
一方、日本酒では麹カビがお米を甘酒にしていく作業と、甘酒を酵母が酒にしていく作業が同時に行われます。これが「並行複発酵」です。
この方法は、温泉宿で一度にすべての料理が並ぶよりも、わんこそばのように少しずつ供給される方がたくさん食べられるのと似ています。酵母に少しずつ糖分が供給されることで、結果的に多くのアルコールが生成されるのです。
さらに、日本酒の酵母はアルコール耐性が高く、発酵管理次第で18〜20%付近まで到達し得ます。※高濃度発酵は日本酒が代表的ですが、他の醸造酒でも条件次第で見られる場合があります。
焼酎の度数は蒸留により25度前後と日本酒より高度数
同じく日本の伝統的なお酒である焼酎ですが、日本酒とは度数が大きく異なります。焼酎は蒸留酒というカテゴリーに分類され、一般的には25度や20度程度のものが多く流通しています。
日本酒が米を発酵させて搾るのに対し、焼酎は芋、麦、米などを発酵させたものをさらに蒸留してアルコール分だけを集める製法を取ります。そのため、製品としてのアルコール度数は日本酒よりも高くなります。
蒸留したての焼酎は、原酒段階では40%台、銘柄によっては60%台に達する例もありますが、流通の中心は25%前後(一部20%)です。焼酎の原酒の度数帯は日本酒では到達不可能な領域です。焼酎と日本酒は、同じ日本のお酒でありながら、製造方法の違いによってまったく異なる特性を持っているのです。
ワインのアルコール度数は日本酒より3~4度低め
ワインのアルコール度数は、一般的に11~14度程度で、日本酒と比較すると3~4度低くなっています。これはぶどうが持っている糖分があらかじめ決まっており、追加の糖分供給がないためです。
近年は温暖化等の影響で度数が上がる産地もありますが、多くは12〜14%に収まり、一部のスタイルで15%前後に達する例もあります。最近ではむしろ、度数を抑えようとする動きも見られます。
ワインは度数が低い分、酸味と渋味(収斂味)が強く、口の中に感じる印象としてはしっかりとした味わいを持っています。これに対し、日本酒は度数は高いものの、より柔らかで繊細な味わいをもたらします。
“日本酒度数”と辛口の関係性。甘辛の判断基準
“日本酒度数”という言葉を聞いて、アルコール度数と混同される方も多いのではないでしょうか。実は“日本酒度数”という表現は紛らわしく、甘辛の傾向を見る指標が「日本酒度」(比重由来)です。アルコール度数とは別物です。
簡単に説明すると、プラスの値は糖分が少ない状態を、マイナスの値は糖分が多い状態を表しています。−3や−5といった表記があれば糖分が多く残っており、甘さを感じる日本酒ということになります。反対にプラスの値が大きくなるほど糖分が少なく、これを日本酒の世界では一般的に「辛口」と呼んでいます。
一方で、アルコール度数が高いお酒は、含まれるアルコール分が多いため、一般的に辛さを感じやすくなります。つまり、アルコール度数が高い方が辛口の印象を受けやすいのですが、アルコール度数と辛口かどうかは直接的な関係はないということになります(https://serai.jp/gourmet/1235276)。
日本酒でも「低アルコール」製品が人気の現状
近年、日本酒業界でも低アルコール化が一つのトレンドとなっています。夏場に爽やかに飲める日本酒や、微発泡感のある日本酒などが人気を集め、アルコール度数を意図的に下げた商品が数多く登場しています。
低アルコールのものでは13度や12度、大手酒造メーカーの月桂冠からは「アルゴ 日本酒5.0」というアルコール度数5%の日本酒も発売されています。微発泡の「澪(みお)」なども含めて、“低アルでも満足感”を狙った商品が登場しています。

問い合わせ/月桂冠お客様相談室 Tel.0120-623-561(9時~17時、平日のみ)
https://www.gekkeikan.co.jp/products/al5/
低アルコール日本酒の課題は水っぽさが出てしまうことですが、最新の技術では甘味、旨味、酸味のバランスを巧みに調整することで、低度数でも満足感のある味わいを実現しています。
汲水設計や麹歩合・発酵温度の制御、上槽後の割水設計などを組み合わせることで、低アルでも“薄さ”を感じさせないバランス設計が可能になっています(用語や手法は蔵により異なります)。
まとめ
日本酒のアルコール度数は確かに他の醸造酒と比較して高めですが、これは必ずしも飲みにくさを意味するものではありません。むしろ、飲んだときの満足感や味わいの深さを生み出す重要な要素なのです。
度数が高いお酒は、時間をかけてゆっくりと味わうことで、より深い楽しみを与えてくれます。一方で、季節に合わせて低アルコールの日本酒を爽やかに楽しむという選択肢もあります。
ぜひこの機会に、日本酒の度数の多様性を楽しんでみてください。

山内祐治(やまうち・ゆうじ)/「湯島天神下 すし初」四代目。講師、テイスター。第1回 日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMAコンクール優勝。同協会機関誌『Sommelier』にて日本酒記事を執筆。ソムリエ、チーズの資格も持ち、大手ワインスクールにて、日本酒の授業を行なっている。また、新潟大学大学院にて日本酒学の修士論文を執筆。研究対象は日本酒ペアリング。一貫ごとに解説が入る講義のような店舗での体験が好評を博しており、味わいの背景から蔵元のストーリーまでを交えた丁寧なペアリングを継続している。多岐にわたる食材に対して重なりあう日本酒を提案し、「寿司店というより日本酒ペアリングの店」と評されることも。
構成/土田貴史











