相続放棄したら相続税はどうなる？｜生命保険との関係や相続放棄した人がいる場合の分割について解説【お金の学校】

一般的に相続では、相続する権利を放棄することができることはご存じでしょうか？

相続人が複数いる場合、相続を放棄した人がいると、相続税はどのように計算されるのでしょうか。また、相続を放棄した人がいる場合の分割割合はどのようになるのでしょうか。これらをあらかじめ知っておくと、相続放棄の可能性がある場合の相続対策がしやすくなります。

今回は、「相続放棄」について詳しくみていきましょう。 100歳社会を笑顔で過ごすためのライフプラン、ライフブック（R）を提唱する、ファイナンシャルプランナー藤原未来がわかりやすく解説します。

目次
相続放棄したら相続税はどうなる？　知っておきたい基本と注意点
生命保険と相続放棄｜放棄しても保険金は受け取れるのか？
相続放棄した人がいる場合、相続税や遺産分割はどう変わる？
まとめ

相続放棄したら相続税はどうなる？　知っておきたい基本と注意点

「相続放棄」とは、被相続人の財産や借金など一切の権利義務の相続を放棄することを指します。相続放棄をするには期限があり、「自己のために相続の開始があったことを知ったときから３か月以内」に、家庭裁判所に対して「相続放棄の申述」を行なう必要があります。

被相続人が死亡した日ではないということがポイントです。例えば、疎遠だった親族の死亡を後から知った場合、その「知った日」から起算されます。

相続放棄すると相続税はかからない？　計算方法と仕組みを解説

基本的には、相続放棄した人には相続税はかかりません。相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったとみなされます。そのため、一切の財産を受け取っていないことになり、課税対象外となるのです。ただし、いくつか例外や注意点もあるため、以下に詳しく解説します。

＜例外＞

１．生命保険金など「みなし相続財産」を受け取った場合

相続放棄しても、生命保険金や死亡退職金などは個人の財産として受け取れる場合があり、これらには相続税がかかることがあります。ただし、非課税枠があり、「受け取る生命保険金や死亡退職金などの金額」≦「非課税枠の金額」の場合、相続税が課税されることはありません。

非課税枠の計算には法定相続人の数が含まれますが、「民法上の法定相続人」と「税法上の法定相続人」は異なるため注意が必要です。

※非課税枠の計算

500万円×法定相続人の数（放棄した人も含む）

「税法上の法定相続人」は相続税の計算に使われるため、非課税枠の計算では相続放棄した人がいても、法定相続人の数は相続放棄した人も含みます。

２．相続放棄する前に相続財産を処分・使用した場合（単純承認）

例えば、被相続人名義の車を売る・預金を引き出すなど相続財産を処分・使用したとみなされると、相続放棄が認められず、相続税の課税対象になる可能性があります。

＜他の相続人への影響＞
相続放棄した人がいる場合、他の相続人に税負担が集中することがあります。相続放棄者には税がかかりませんが、残った相続人が受け取る財産が増えることで、結果的にその人たちの相続税が増えることがあるのです。

相続放棄でも申告が必要なケースとは？　控除や対象者に注意

相続放棄でも申告が必要なケースは、前述の相続放棄前に相続財産を処分・使用した場合（＝単純承認とみなされる）や生命保険金や死亡退職金の受取りの他にも、申告が必要なケースがあるので注意が必要です。

相続放棄が確定するまでの間に申告期限が来る場合

相続放棄は、「家庭裁判所への申述　→　受理」で成立します。相続放棄がまだ成立していない段階で相続税の申告期限が来てしまう場合、一旦相続人として申告する義務を果たす必要があるケースもあります。

生命保険と相続放棄｜放棄しても保険金は受け取れるのか？

一般的に生命保険は受取人を指定します。例えば、終身保険の受取人を配偶者に指定しているといったケースです。この場合、配偶者が相続放棄したら保険金は受け取れないのでしょうか？　ここでは相続における生命保険金の扱いについてもう少し詳しく見ておきましょう。

生命保険は“相続財産”ではない？　非課税枠と税務上の扱い

結論から言うと、相続放棄しても生命保険金は受け取れます。なぜならば、生命保険金は法律上、相続財産ではなく「みなし相続財産」という扱いになるからです。ただし、「相続財産ではない」＝「課税されない」ではないことは覚えておきましょう。

被相続人が契約者で、受取人が明確に指定されている場合に保険金は「受取人固有の財産」とみなされ、相続放棄の影響を受けません。ただし、以下のように注意しなければならない点があります。

１．受取人が「法定相続人」となっている場合

保険金の受取人が「法定相続人」となっている場合、受取人が指定されていませんので、保険金が相続財産とみなされて、放棄した人には受け取る権利がなくなります。

２．相続税の課税対象になる

相続放棄しても、受け取った保険金の一部は相続税の課税対象になります。保険金が相続税の課税対象となる場合、受け取る保険金額が非課税枠を超えた部分の金額が課税対象となります。

相続放棄と生命保険のよくある勘違い

相続放棄と生命保険のよくある勘違いを、以下のとおり、まとめてみましたので、参照してみてください。「→」の右側が正解です。

・相続放棄したら保険金も受け取れない　→　個人名で受取人が指定されていれば受け取れます。

・保険金を受け取ったら相続放棄できない　→　保険金は原則「受取人固有の財産」なので相続財産を処分したことにはならないため、受け取っても相続放棄は可能です。

ただし、「法定相続人名義で受取人が指定されていて、かつその保険金が実質的に相続財産と判断されうるようなケース」では、相続放棄すると受け取れない可能性があり、ケースによって慎重な判断が必要です。

・保険の受取人を「法定相続人」としているから、誰が相続放棄しても関係ない　→　放棄した人は「法定相続人ではなくなる」ため、保険金を受け取ることはできません。

・相続放棄をすれば、借入金だけでなく保険金も関係ないから全て放棄でOK　→　保険金を「受取れる立場」にいるなら、もらえるものはもらっていいでしょう。

相続放棄した人がいる場合、相続税や遺産分割はどう変わる？

相続放棄した人がいる場合、相続税や遺産分割はどのように変わるのか。法定相続人の数え方はどうなるのか。詳しく見てみましょう。

相続放棄すると次に相続するのは誰？　順位と法定相続人の数え方

相続放棄した人がいる場合でも、同じ順位の相続人が１人でも残っていれば、その人たちだけで相続を行ないます。すべての同順位の相続人が放棄した場合は、次順位の相続人が相続権を得ます。

例：子ども１人が相続放棄した場合

・本来：配偶者＋子２人で分割
・相続放棄後：配偶者＋残る子１人

このように、第１順位の子どもが１人でも残っていれば、第２順位（父母）や第３順位（兄弟姉妹）には相続権は移りません。

例：親が１人存命で、子ども２人が相続放棄した場合

・本来：配偶者＋子２人で分割
・相続放棄後：配偶者＋親

この場合、子どもが全員相続放棄したため、第１順位の相続人がいなくなり、第２順位（直系尊属＝親）が相続人に繰り上がります。

法定相続人の数は「民法上の法定相続人」と「税法上の法定相続人」でカウントの目的によって含めるか否かが異なり、「民法上の法定相続人」は相続放棄した人は、最初から相続人でなかったとみなされるため人数に含まれません。しかし、「税法上の法定相続人」は相続放棄した人がいても、相続税の基礎控除や生命保険の非課税枠などの計算では、相続放棄した人も含めて人数をカウントします。

相続放棄後の遺産分割協議の進め方と注意点

相続放棄した人は遺産分割協議に参加できず、相続放棄した人を除く他の相続人で遺産分割協議をします。相続放棄をすると、その人は初めから相続人でなかった扱いになるため、遺産分割協議にも加われません。

まとめ

相続放棄をすると原則相続税はかかりませんが、生命保険金など「みなし相続財産」には課税される可能性があります。相続放棄後の相続人の範囲や税負担にも影響があるため注意が必要です。

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