「生前贈与」とは、生きている間に財産を贈与すること。 贈与税の非課税枠を活用することによって、相続税の節税効果があるため、「生前贈与」が近年注目を集めています。
しかし、相続税と贈与税の非課税枠の違いはどのくらい差があるのでしょう。知識を持たずに贈与を行うと、高い税金を払うことにもなりかねません。「事前にきちんと調べておけば良かった」と後悔しないためにも、正しい知識を身につけることが大切です。
そこで、 アクティブシニアのライフサポートを行う株式会社ユメコム代表の橋本珠美が、豊富な経験や事例をもとにアドバイスを申し上げます。
目次
生前贈与とは
生前贈与の定番、暦年贈与
不動産・住宅に関する生前贈与
子・孫への生前贈与
夫婦間の生前贈与点
「相続財産の先渡し」ができる生前贈与
生命保険の「非課税枠」を利用した生前贈与
贈与税の申告と納付期限
まとめ
生前贈与とは?
亡くなることで発生する相続とは違い、生前贈与は生存しているうちに、財産を子どもや配偶者などの個人に贈与すること。財産を渡す人と受け取る人が、それぞれ合意の上で取り決める一種の契約です。
贈与税と相続税、どちらが得?
生前贈与をすれば「贈与税」がかかりますが、贈与税は相続税より高い税率で課税されるので注意が必要です。税率は以下の通りです。
▷ 贈与税
【基礎控除額 】 110万円
最高税率・55%(3,000万円超の場合)
最低税率・10%(200万円以下の場合)
▷相続税
【基礎控除額 】 3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
最高税率・55%(6億円超の場合)
最低税率・10%(1,000万円以下の場合)
生前贈与をして相続税を減らしても、高い贈与税を払うことになっては意味がありませんね。生前贈与は、以下に紹介する方法を用いて賢く行いましょう。
生前贈与の定番、暦年贈与
「暦年贈与」は、生前贈与の種類の中でも王道の方法です。毎年1月1日から12月31日までの間に受けた贈与の金額を算出します。110万円以下は非課税、110万円を超えると課税する制度。そのため、贈与金額が110万円を越えた額には贈与税がかかります。例えば贈与額合計が130万円であれば、基礎控除額110万円を差し引いた金額の20万円に対して贈与税がかかります。
不動産・住宅に関する生前贈与
住宅取得のための金銭の贈与を行った場合、贈与税が非課税となります。ただし、ひとり当たりの限度額があるのでご注意ください。
子・孫への生前贈与
子どもや孫へ生前贈与をする場合、下記のような方法があります。
結婚・子育て資金の一括贈与
結婚や子育て資金として、子や孫 (20歳以上50歳未満)に対し1,000万円の範囲まで贈与をすることができ、受贈者が50歳になるまでに使われた場合には、贈与税が非課税となります。
※2023年3月31日までの贈与が対象。
※一定の要件を満たすことが必要です。
教育資金の一括贈与
教育資金として、子や孫ひとりにつき1,500万円の範囲まで非課税で贈与することができます。資金は、銀行や保険会社等の金融機関に預け、必要に応じて引き出すという方法が一般的です。
※2023年3月31日までの贈与が対象。
※一定の要件を満たすことが必要です。
夫婦間の生前贈与
夫婦間で、居住用の不動産もしくは居住用の不動産を取得するための金銭を配偶者に贈与する場合、最高で2,000万円まで「配偶者控除」が認められます。 ただし、婚姻期間が20年以上あることが要件に定められています。
※一定の要件を満たすことが必要です。
「相続財産の先渡し」ができる生前贈与
財産を生前に贈与しておくことで、贈与税を2,500万円まで非課税にできる相続時精算課税制度。将来、価値が上がる可能性のある土地や株式などを早めに受贈者に移転させることで、相続時の節税が可能です。
この制度は、いわゆる「相続財産の先渡し」であるため、相続時には、贈与を受けた分の金額が相続財産に加算されます。また、暦年贈与と併用することはできません。
※一定の要件を満たすことが必要です。
生命保険の「非課税枠」を利用した生前贈与
生命保険の死亡保険金は非課税枠があり、計算方法は「500万円× 法定相続人の数」となります。保険契約には、本人が「望む相手」に財産を残すという遺言と同じような役目を果たすことができます。
贈与税の申告と納付期限
財産をもらった人は、原則的に贈与税の申告と納税は、もらった年の翌年の2月1日から3月15日までにしなければなりません。
また、申告書の提出方法には、郵便や信書便による送付、税務署の時間外収受箱へ投函、その他にe-Taxを利用し送信する方法があります。
≪納付が期限に遅れた場合 ≫
遅れた税額に対して遅延税がかかります。
≪申告期限を過ぎた場合・実際の額より少なく申告した場合 ≫
本来の税金の他に加算税がかかります。
贈与税の申告漏れはばれる?
現金及び手渡しで贈与すれば、贈与税を申告しなくてもばれないと考える人もいるようですが、結論からいうと、ばれる可能性が高く、ばれた場合に追徴課税や刑事罰の対象となります。
例えば、生前贈与の先にいつか来る相続の際には、相続税の申告漏れがないかを税務署が調査(税務調査)を行います。ちなみに、過去10年分の預貯金の出入金履歴(銀行や郵便局)から、引き出された現金の行方が調査された例もあります。ひとつ疑わしき点が見つかると、実地調査では、さらに詳細な調査が行われ、現金の生前贈与の無申告が発覚することがあるのです。
贈与税の時効
贈与税の時効は、原則6年(贈与した年の翌年の3月15日から起算)です。しかし、意図的に申告をしなかったなど悪意がある場合には、7年になります。
この期間、税務署から贈与税の調査がされないままであれば、贈与税を納税する義務はなくなるということですね。
まとめ
いかがでしたか 贈与税は相続税より高い税率でであること、また非課税で行う生前贈与の方法や申告しなかった場合のリスク等を解説してきました。余裕のある元気なうちに正しい情報を知り、備えておきましょう。
●構成・編集/ 末原美裕・内藤知夏(京都メディアライン・http://kyotomedialine.com)
●取材協力/橋本 珠美(はしもと たまみ)
2001年4月、株式会社ユメコムを起ち上げ、介護・福祉の法人マーケットを中心に、誰もが高齢社会を安心して過ごすためのコンサルティングを始める。
また「高齢者と高齢者を抱える現役世代」のための相談窓口「シニアサポートデスク」「ワーク&ケアヘルプライン」を運営し、高齢者やそのご家族の幅広いお悩み(介護・相続・すまいなど)にお応えしている。
相談窓口の事例と自身の経験(ダブルケア)を取り入れたセミナー活動は好評を得ている。
株式会社ユメコム(https://www.yumecom.com)
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。
個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)