生きているうちに個人へ財産を渡す「生前贈与」、皆さんはどの程度ご存じでしょうか。今「生前贈与」が注目を集めている理由、それは贈与税の非課税枠を上手く活用することによって、相続税の節税効果が期待できることにあります。
しかし、正しい知識を持たずに生前贈与を行うと、後々に税金面で逆効果になる可能性があります。そうならないためにも、正しい知識を身につけておくことが大切ですね。
目次
生前贈与とは
「生前贈与」が注目された背景
どのような人が「生前贈与」を検討する必要があるのか?
知っておきたい「生前贈与」の種類
暦年贈与の注意点
まとめ
そこで、 アクティブシニアのライフサポートを行う株式会社ユメコム代表の橋本珠美が、豊富な経験や事例をもとにアドバイスを申し上げます。
生前贈与とは?
生前贈与とは、生きているうちに、自分の財産を配偶者や子どもなどに贈与すること。財産をあげる人(贈与者)ともらう人(受贈者)がそれぞれ合意することで成立する、一種の契約です。
「生前贈与」が注目された背景
従来は「相続税を払うのは一部の金持ちのみ、庶民には関係ない」というイメージがありました。しかし、2015年の相続税法の改正により、相続税の課税が強化され、相続税の課税対象となる人が急増。そのことに伴い、節税対策として生前贈与が注目されるようになりました。
相続税の「基礎控除額」の引き下げ
課税対象になる人が増えた理由は、相続税がかかるかどうかの基準の金額である基礎控除額が引き下げられたことにあります。実際の例をもとに解説します。
相続税の基礎控除額 | |
2014年12月 以前の相続 | 5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数) |
2015年1月 以降の相続 | 3,000万円+(600万円×法定相続人の数) |
■法定相続人3人の場合
(改正前)8,000万円まで非課税 → (改正後)4,800万円まで非課税
相続税法改正前と比べると、非課税額が40%も減少したことになります。
どのような人が「生前贈与」を検討する必要があるのか?
「相続」発生=「相続税」を納める、と思いがちです。しかし実際は、相続財産を取得した人全員に課税されるわけではありません。
「基礎控除」が設定されていて、取得した財産の価格が「基礎控除額以下」であれば、相続税はかかりません。資産が基礎控除額を超える可能性がある場合は、生前のうちに対策を考えておきましょう。
知っておきたい「生前贈与」の種類
生前贈与を行うのであれば、できるだけ税金を抑えたいですよね。ここでは一般的な生前贈与の種類をご紹介します。
1:暦年贈与
「暦年贈与」は、生前贈与の定番です。毎年1月1日から12月31 日までの間に受けた贈与の金額を算出し、110万円以下なら非課税、110万円を超えていたら課税するという制度です。贈与金額が110万円を越える場合、受贈者に基礎控除額110万円を差し引いた金額に対して贈与税がかかります。
2:生命保険の「非課税枠」を利用する、住宅取得等の資金の贈与
死亡保険金は「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があります。保険契約には、「望む相手」に財産を残すという遺言と同じような役割を可能にするのです。
3:住宅取得等の資金の贈与
子や孫に対して住宅取得のための金銭贈与を行った場合、ひとり当たりの限度額はありますが、贈与税が非課税となります。
4:教育資金の一括贈与
子や孫ひとりにつき1,500万円までの贈与が非課税になります。主に銀行や保険会社等の金融機関に教育資金を預け入れ、必要に応じて引き出すというしくみです。
※2023 年3月31日までの贈与が対象。
※一定の要件を満たすことが必要です。
5:結婚・子育て資金の一括贈与
20歳以上50歳未満の子や孫に対して1,000万円を限度として贈与を行い、受贈者が50歳になるまでに使われた場合には、贈与税が非課税となります。
※2023年3月31日までの贈与が対象。
※一定の要件を満たすことが必要です。
6:夫婦間の居住用不動産の贈与
婚姻期間が20年を超えた夫婦が、居住用不動産もしくは居住用の不動産を取得するための金銭を配偶者に贈与する場合、最高で2,000万円まで「配偶者控除」が認められます。
※一定の要件を満たすことが必要です。
7:相続時精算課税制度
財産を生前に贈与しておくことで、贈与税を2,500万円まで非課税にできる制度です。将来的に値上がりが予想される土地や株式などを早めに受贈者に移転させることで、相続時の節税が実現できます。
この制度は、いわゆる「相続財産の先渡し」です。そのため、相続時には、贈与を受けた分の金額が相続財産に加算されます。また、暦年贈与と併用することはできません。
※一定の要件を満たすことが必要です。
暦年贈与の注意点
本人は贈与のつもりで子や孫名義の口座に入金していても、贈与の申告や贈与契約書を作成していなければ、贈与ではなく名義預金とみなされ、相続財産とされてしまう可能性があります。名義預金と指摘されないようにするための4 つの方法を、ご紹介します。
1:贈与契約書を作成する。
2:受贈者がその金銭を自由に使い、贈与者と違う印鑑で通帳の維持、管理を行う。
3:贈与の申告を行い、贈与税を支払う。
4:相続が発生した際、贈与であることを主張する。
まとめ
いかがでしたか? 相続税法の改正により、注目されるようになった「生前贈与」。控除限度額などの正しい知識を事前に身につけておくことで、節税対策になることがおわかりいただけたと思います。
財産をあげる人ともらう人が 生前に話し合い、決めることが出来るという点で、トラブル回避にも繋がることもメリットと言えるでしょう。
●構成・編集/ 末原美裕・内藤知夏(京都メディアライン・http://kyotomedialine.com)
●取材協力/橋本 珠美(はしもと たまみ)
2001年4月、株式会社ユメコムを起ち上げ、介護・福祉の法人マーケットを中心に、誰もが高齢社会を安心して過ごすためのコンサルティングを始める。
また「高齢者と高齢者を抱える現役世代」のための相談窓口「シニアサポートデスク」「ワーク&ケアヘルプライン」を運営し、高齢者やそのご家族の幅広いお悩み(介護・相続・すまいなど)にお応えしている。
相談窓口の事例と自身の経験(ダブルケア)を取り入れたセミナー活動は好評を得ている。
株式会社ユメコム(https://www.yumecom.com)
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。
個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)