転職市場が活況の今、会社を辞めることのハードルは低くなりました。会社を辞める理由は人それぞれですが、退職後の当面の生活の助けになるのは、やはり雇用保険の失業給付です。なかには、会社を辞める前にすでに次の就職を決めている人もいますが、多くの人は失業手当を受給しながら新しい職場を探すことになります。けれども、病気や出産などで会社を辞めた場合、就職する意思はあっても、すぐには働くことができないという人もいるでしょう。

また、求職活動中に、けがや病気などで長期間療養を余儀なくされる場合もあります。失業手当を受けるためには、すぐに就職できる状態であり、求職活動を行なっていることが前提ですが、このような場合は、失業手当は受給できるのでしょうか? 

今回は、失業手当の受給期間の延長について人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
雇用保険の受給期間の延長申請は可能?
延長申請に該当する働けない理由とは
延長申請する際の注意点
まとめ

雇用保険の受給期間の延長申請は可能?

雇用保険のいわゆる失業手当と呼ばれるものは、求職者給付のうちの基本手当という給付です。基本手当の受給期間は、原則として離職した日の翌日から1年間と定められています。けれども、けがや病気、出産や育児などで働けない期間が長くなると、1年以内に基本手当を受けられる日数は限られてしまいます。このような場合、受給期間はどうなるのでしょうか?

基本手当の受給期間内に30日以上働けない状態が続いた場合は、ハローワークに申し出て受給期間の延長を申請することができます。これは、退職後に健康保険の傷病手当を継続して受けている人や、労災保険の休業補償を受けている人も対象となります。30日以上働けない場合、受給期間が延長できるのは3年間が上限となっています。つまり、本来の受給期間1年に働くことのできない期間が加算されるので、受給期間は最長4年間となります。

ちなみに、働けない期間が30日未満である場合は、別の救済措置があります。求職の申し込みをした後、けがや病気で働けなくなった場合、それが15日未満であれば、ハローワークに届け出て基本手当を受給することができますが、15日以上だと就労不能とみなされ、基本手当は支給されません。その場合は、傷病の認定を受けることによって雇用保険の傷病手当を受けることができます。

これは基本手当と同額の手当が支給される制度で、受給した日は、基本手当を受けた日とみなされます。受給期間の延長が申請できるのは働けない期間とは限りません。60歳以上で定年退職した人などは、しばらく休養してから仕事を探したいという人もいるでしょう。この場合は離職の日の翌日から2か月以内に申請することによって、本来の受給期間に加えて、最長1年間受給期間を延長することができます。

延長申請に該当する働けない理由とは

どのような理由があれば、受給期間の延長が可能なのでしょうか? 延長の申請は、30日以上働くことができない状態が続くことが条件ですが、具体的にどのような理由が該当するかというと、本人の病気やけが、妊娠、出産、3歳未満の子の育児などが挙げられます。

また、常時介護を必要とする家族の介護をする場合や配偶者の海外勤務に同行する場合、さらに、青年海外協力隊など公的機関が募集するボランティア活動への参加でも、受給期間の延長が認められる場合もあります。実際に認められるかどうかは、ハローワークの判断によりますから、受給期間の延長を希望する人はハローワークに相談すると良いでしょう。

また、前述のように、60歳以上で定年などで退職した場合は、しばらくの間休養するという理由で延長の申請ができます。さらに、令和4年より、事業を開始した人などを対象とした受給期間の特例が新設されました。これは受給期間の延長とは制度が異なりますが、離職後に事業を開始したり、事業に専念することにした人は、事業を行なっている期間は最大3年間受給期間に算入しないという特例です。

これによって、仮に廃業したとしても、その後再び就職活動を始めれば、基本手当を受けることが可能になります。
この特例を申請するには、事業を開始した日や専念することにした日が確認できる書類が必要になります。申請できるかどうかはハローワークに相談した上で、手続きを進めると良いでしょう。

延長申請する際の注意点

受給期間の延長申請をする歳に注意しなければならないのは、申請手続をする時期です。離職後1年間の基本手当受給期間内に、引き続き30日以上働けない状態が続いたときは、30日を過ぎてから、受給期間の延長申請をします。これは、延長後の受給期間の最後の日までであれば、申請することができます。ただし、申請が遅くなると、基本手当の所定給付日数のすべては受給できない場合もあります。

たとえば、申請可能期間終了の1か月前でも申請することも可能ですが、1か月経って受給期間が終了すると、基本手当の支給は打ち切りになってしまいます。この点に気をつけて、申請はなるべく早めにすると良いでしょう。定年退職の場合の延長の申請は離職の日の翌日から2か月以内になります。また、事業を開始等の理由による受給期間の特例も、事業を開始した日、専念し始めた日の翌日から起算して2か月以内が申請期間となっています。

なお、ここで取り上げているのはあくまで受給期間の延長です。公共職業訓練を受けている人や、大規模な自然災害などで失業した人などは、一定の条件を満たすことにより、給付日数そのものが延長される場合もあります。給付日数の延長制度は、それぞれ細かい条件があるため、対象になる可能性があるときはハローワークに確認しましょう。

まとめ

会社を辞めて次の仕事を探すとき、雇用保険の失業給付は大きな助けになる制度です。しかしながら、失業手当を受けるためには求職活動を行なっていることが条件となっており、すぐに就職できる状態でなければなりません。受給できる期間も離職の日の翌日から原則1年間に定められています。期間中に働けない理由が生じた場合は、ハローワークに相談しましょう。受給期間の延長制度を利用することによって、焦ることなく職探しをすることができます。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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