正社員ではなく、非正規として働く人の数は年々増えています。人手不足の昨今、パート・アルバイトの人なしでは、成り立たない会社も多くあるのではないでしょうか? アルバイトとして働くことは、働く時間や日数などを調整できるというメリットがありますが、正社員に比べると、不安定な雇用であることは否めません。アルバイトの場合、雇用保険はどのようになっているのでしょうか? 

今回はアルバイトの雇用保険について人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
アルバイトは雇用保険に加入できる?
アルバイトが雇用保険に加入できないケース
会社が未加入!? アルバイト先のトラブル事例
まとめ

アルバイトは雇用保険に加入できる?

雇用保険の加入には、正社員か非正規なのかということは関係ありません。アルバイトであっても雇用保険に加入することができます。雇用保険の被保険者には、一般被保険者、高年齢被保険者、4か月以内の季節的業務に雇用される短期雇用特例被保険者、日雇労働被保険者の4種類があります。今回は、一般被保険者と高齢被保険者について見ていくことにしましょう。

雇用保険は、要件を満たす労働者を一人でも雇用している事業は、強制的に適用事業所となります。例外は従業員5人未満の個人経営の農林水産業など、ごく一部しかありません。適用事業所で働いている労働者が、雇用保険に加入する要件は2つあります。「1週間の労働時間が20時間以上であること」「同一の事業主に31日以上雇用されることが見込まれること」この要件を満たせば、適用除外者に該当しない限り、当然に被保険者になります。

自分はアルバイトだから加入しなくても良いという人もいるかもしれませんが、本人の意思で決めることはできません。ちなみに、65歳以上の人は高年齢被保険者、65歳未満の人は一般被保険者となります。さらに、雇用保険は在宅勤務のアルバイトであっても、加入することが可能です。

コロナ禍で在宅勤務者は増えましたが、指揮命令系統が明確で、就業規則などの定めにより、労働時間が管理されている場合は被保険者になります。ただし、請負や業務委託などで仕事をしている場合は、雇用保険の対象とはならないので、その点は認識しておきましょう。

アルバイトが雇用保険に加入できないケース

雇用保険は、アルバイトであっても適用除外者でないかぎり、要件を満たせば被保険者の資格を取得できます。では適用除外者とはどのような人を指すのでしょうか? 雇用保険は雇用されている人が対象なので、経営者は当然被保険者になれませんが、経営者と同居の親族もまた被保険者になることはできません。家事使用人や海外の支店などで現地採用された人も対象外になります。

また、学生のアルバイトは、通信制や夜間部などの場合を除いて、原則として被保険者になることはできません。ただし、これには例外もあります。休学中の者や、卒業予定の者が内定している会社で働く場合などは被保険者になります。それ以外でも雇用保険の加入が認められる場合もありますので、具体的な判断はハローワークに確認しましょう。

それから、ここで取り上げておきたいのは、ダブルワークをしているケースです。2つの会社で働いていて、両方とも雇用保険の加入要件を満たしていたらどうなるのでしょうか? 雇用保険は、2つ以上の事業所で同時に被保険者になることはできません。どちらか、生計を維持する上で主たる賃金を受けるほうの会社で、被保険者となることになります。ただし、これの例外となる制度が2022年に新設されました。

「雇用保険マルチジョブホルダー制度」というものです。これは2つの事業所の勤務を合計して週20時間以上などの要件を満たす場合は、雇用保険の被保険者となれる制度です。しかしながら、この制度は65歳以上の人が対象であり、本人が申出を行なうことが条件になっています。一般的には、二つの事務所で同時に被保険者になることはできないと覚えておいた方が良いでしょう。

会社が未加入!? アルバイト先のトラブル事例

加入要件をクリアしているのに、雇用保険に加入していなかったということも時にはあります。これには大きく分けて3つのケースがあります。

1つ目は、適用事業所で働いているが、会社が手続きをしてくれないというケースです。給与明細で雇用保険料が控除されているかどうか確かめてみましょう。中には、経営者が加入要件を知らず、アルバイトは加入しなくて良いと誤解している場合もあります。雇用保険の資格取得の要件については、会社やハローワークに確認することをおすすめします。

2つ目は、給与から雇用保険料が引かれているのにもかかわらず、「会社が取得手続きを忘れていた」というケースです。こうした事例は、退職時に失業手当をもらう手続きができず、発覚することが多いものです。雇用保険は原則として2年前までさかのぼって加入できます。

給与明細などから保険料が控除されていることが明らかならば、2年を超えてさかのぼることも可能です。会社に手続きをしてもらいましょう。

3つ目は、会社が雇用保険の適用事業所の届出を出していなかった、というケースです。こういう会社の場合、労働保険の成立届すら提出していないことが少なくありません。つまり雇用保険だけでなく、労災保険にも加入していないということです。

会社が労災保険に加入していないと、仕事でケガをしても、労災保険からの治療費や休業補償の給付が受けられません。もちろん、この場合もさかのぼって労働保険の成立届を提出することは可能です。そもそも業務災害が起こった場合は、労災保険に入っていなくても、会社は労働基準法に従って被災者に対して補償をしなければなりません。

けれども、アルバイトであることを理由に、会社が十分な対応をしてくれないこともあるのが現状です。このような未加入のトラブルから、訴訟に発展する事例も数多く見られます。

まとめ

雇用保険は失業給付のほか、条件を満たせば育児・介護休業給付、教育訓練給付なども受給できる制度です。正社員でもアルバイトでも雇用保険に加入する条件に差異はありません。必要な時に制度を利用できるよう、働いている会社が雇用・労災保険に加入しているか確認しておきましょう。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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