皆さんは、職場のパワハラというと、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか? パワハラの定義は、「優越的な関係を背景とした言動であって」「業務上必要かつ相当な範囲を超えて」「労働者の就業環境を害するもの」という3つの条件に当てはまるものとされています。しかし、優越的な関係というのは、上司と部下とは限りません。思わぬところにもハラスメントは潜んでいます。

本記事では、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が「パート同士のパワハラ」を取り上げて解説していきます。

目次
パート同士のパワハラがあったら?
パート同士のパワハラの実例
パート同士のトラブルの解決策
最後に

パート同士のパワハラがあったら?

パート先のパワハラは、上司から受けるものだけではありません。パート同士の間でも、パワハラにつながるトラブルは起こります。たとえば、ベテランのパートが何かと嫌がらせしてくる、リーダー的な存在のパートの主導でパート全員に無視される、パートの同僚がプライベートの飲み会や買い物などにしつこく誘ってくるなど。

このような行為を受けた側は、これがパワハラに当たるのかどうか判断することはなかなか難しいものです。この程度のことは、人に話すほどではないと考えたり、自分に問題があるのではないかと悩んでしまう人も多いのではないでしょうか。

けれども、パート同士であってもパワハラはありえます。「優越的な関係」というのは、上司と部下という職場の地位だけを指すのではありません。パワハラ防止法は、正社員だけでなく、パートや契約社員、派遣社員にも適用されます。パワハラではないか? と感じたら、我慢せずに行動を起こすことも大切です。

パート同士のパワハラの実例

パート同士のトラブルでは、どのような行為がパワハラに該当するのでしょうか? ここで、実例を挙げて解説していきます。

事例1

A子は勤続10年のベテランパートで、パートの食事会などを主催し、職場のパートのリーダー的存在です。トラブルのきっかけは、新しくパートとして入ってきたB子が、A子の食事会の誘いを断ったことでした。その日以来、B子はA子に挨拶しても無視されるように。さらにA子のグループの全員から陰口を言われたり、仕事を教えてくれないなどの嫌がらせを受けるようになりました。

事例2

職場の先輩パートのC子は、D子の高校の先輩でもあります。お互い先輩・後輩であることを知ったのは偶然なのですが、その後C子はD子に何かと用事を頼んでくるようになりました。たとえば、「ついでに、私の分のコーヒーも買ってきて」「食堂の席をとっといて」という具合です。最近は、本来C子がやるべき仕事の後片づけやゴミ捨てなども、「やっといて」と頼まれるようになり、D子は負担に感じています。

事例3

パート先の同僚のE子は、他人のプライベートな話を聞きたがるタイプの人です。E子はF子対して、仕事中であっても「休みの日はどうしてるの?」「買い物はどこでしているの?」などと私的な話をふってきます。さらに、「ご主人はどこにお勤め?」「お子さんの学校は?」などと、家族のことをしつこく聞いてくるのです。

困るのは、うっかり話そうものなら、パート全員に広まってしまうことです。ある時、E子に聞かれて息子の通っている学校名をつい言ってしまったところ、翌日に別のパート仲間から「息子さん、○○大なんだって? 優秀なのね」と言われ、F子はあぜんとしてしまいました。

これら3つの事例に類似したことは、職場のパート同士でよく起こることです。事例1や事例2のような例は、勤続年数が長いとか学校の先輩であるなどの、人間関係の優位性を背景としており、パワハラに該当する可能性が高いものです。集団での嫌がらせも、パワハラの典型と言えるでしょう。

そもそも、勤務時間外の食事会や仕事と関係のない用事などは、業務上に必要性はありません。また、事例3のように過剰に他人のプライバシーに踏み込んでくる行為は、「個の侵害」というパワハラの類型に相当するものです。

パート同士のトラブルの解決策

パート同士のトラブルは、業務と関係のないことが要因になっている場合でもよく見られます。学歴や家族のこと、容姿や年齢、服装にいたるまで、ほとんどすべてのことが嫌がらせのきっかけになるので、ある意味、仕事上のトラブルよりも根が深いものです。パワハラと感じる行為があったら、次のような対処方法を考えましょう。

1.不快な言動があった時は、相手にきちんと伝える

いじめや嫌がらせを受けた時は、毅然とした態度をとることも時には必要です。ただし、相手と同じレベルで争うことはせず、挨拶や仕事の連絡などは今まで通り続けましょう。

2.どのような言動があったか、事実を記録しておく

相談する時のことを考えて、「いつ」「どこで」「誰から」「どのような行為を受けたか」「誰が見ていたか」などの事実をなるべく詳しく記録しておきましょう。

3.家族や友人に相談する

自分一人では、冷静に判断ができないこともあります。信頼できる人から客観的な意見を聞くことも必要です。

4.上司や社内・社外の相談窓口に相談する

パワハラと感じる行為を受けた時は、思い切って上司や会社に相談することも考えましょう。上司がトラブルを認識していない場合もあり、相談することで事態が好転することもあります。会社の相談窓口に相談するほか、状況に応じて専門家のいる外部の機関に相談することもできます。

5.退職・転職を考える

抗議したり、相談してみても解決につながらない場合は、新しい出会いを求めて退職するのも一つの案です。退職を決意したら、前向きな気持ちで最後まで常識的な行動をしましょう。退職時に、パワハラの事実を報告することは悪いことではありませんが、その場合も感情的にならずに冷静に事実を伝えた方がいいでしょう。

最後に

パート同士のトラブルは、会社側には「個人的ないさかい」と受けとめられることが多く、十分な対応をしてくれないケースも少なくありません。そのために、一人で我慢してストレスで体調を崩したり、退職を余儀なくされることもあります。

パワハラを見過ごしていては、健全で明るい職場は実現できません。上司や会社は問題を過少に見ることなく、社員であってもパートあっても、パワハラは許さないという態度で臨むことが大切です。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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