対面ではなくオンライン上で行うWeb会議は、今や多くの場面で行なわれています。Web会議がここまで普及したきっかけは、やはり新型コロナの感染拡大です。コロナ禍でリモートワークが増加したことにより、企業でもWeb会議は急速に浸透しました。

その一方で、新たなハラスメントも生まれています。今回は、リモートワークにまつわるハラスメントについて取り上げましょう。人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
Web会議で顔出しを強制するのはパワハラ?
パワハラにあたる実例
カメラオンをお願いしたい時の依頼方法
最後に

Web会議で顔出しを強制するのはパワハラ?

皆さんは、「リモートハラスメント」という言葉をご存じでしょうか? これは、リモートワーク中に起こるハラスメント行為のことを指します。リモートワークでの会話は、会社で対面している場合と異なり、コミュニケーションの取り方が難しいものです。

皆さんの職場でもWeb会議の機会はあると思いますが、その中でカメラをオンにして顔出しを強制するのはパワハラに当たるでしょうか? リモートワークといっても就業時間なのだから、顔出しくらいは当然だと考える人もいるかもしれません。しかしながら、その考え方は要注意です。Web会議の顔出し要求は、パワハラと受け取られる可能性があるのです。

自宅は職場と違って生活の場です。誰もが完全に仕事に集中できる環境にいるとは限りません。家族の存在や周囲の物音、室内の状態などが気になる人もいるかと思います。自宅なので、会社に行く時ほどには服装やメイクを整えていない場合も多いでしょう。そんな中で、カメラをオンにして顔出しするには、それなりに準備が必要です。

また、画面上では相手の表情などが読み取りにくく、顔出しで話をすることに不安や緊張を感じる人もいます。会議で発言する際などにカメラをオンにすることはやむをえませんが、必要以上に顔出しを要求したり、相手が予期しないタイミングでカメラオンを求めることは、避けたほうが良いでしょう。知らず知らずのうちに、相手にストレスを与えてしまうことになりかねません。

パワハラにあたる実例

まだ、多くの人がリモートワークに慣れていないということもありますが、Web会議などの場面ではハラスメントに当たる事例がしばしば見られます。パワハラに当たる実例をいくつか取り上げて、解説します。

1.相手のプライベートに踏み込む

画面に映る部屋の様子や、相手の服装やメイクについてあれこれ指摘したり、生活音や家族の声などに対してしつこく質問したりするのは、プライバシーの侵害に当たります。

2.Web会議に不慣れな人をからかう、叱責する

Web会議の歴史はまだ浅いといえます。パソコン操作に不慣れな人や、自宅のパソコン環境が十分でない人もいます。操作を失敗するたびに馬鹿にされたり、叱責を繰り返されるのでは、会議の内容に集中できません。

3.リモートワーク中の部下を過剰に監視する

チャットなどで頻繁に連絡を入れ、返信を要求する、長時間カメラオンすることを強要する行為はパワハラに当たります。相手は、常時監視されていることにストレスを感じてしまいます。

4.部下や同僚を孤立させる

Web会議などで意図的にメンバーからはずしたり、仕事の情報を与えないなどの行為は、相手を孤立させ、就業環境を害するハラスメント行為です。

5.業務と関係のない話でカメラオンを求める

業務ではない私的な話などで一対一のWeb会議を強制したり、必要もないのにカメラオンを要求することはパワハラに当たる可能性が大です。また、オンライン飲み会への参加を強制することは好ましくありません。

ここに挙げた実例の中には、多くの人が深く考えずにやってしまいがちな行為も含まれています。会社で対面では話す場合は問題ない会話も、画面上のやりとりでは誤解を招くこともあります。Web会議そのものが参加者の負担になっていないか、配慮することが必要です。

カメラオンをお願いしたい時の依頼方法

リモートハラスメントの多くは、リモートワークのルールが整備されていないことから起こります。リモートワークが長く続くと、職場のメンバーの体調や仕事の様子などが気になることもあるかと思います。伝えたい内容によっては、画面上でもいいから顔を見て話したほうが良い場合もあるでしょう。

カメラオンをお願いすることが相手のストレスにならないためには、まずはリモートワークのルール、特に顔出しするケースについて取り決めておくことが大切です。例えば、あらかじめ定められた時間に1日1回はカメラオンして話をする。

Web会議で発言する場合はカメラオンすることとし、最低1回は発言の場を作るなど。本人の希望に合わせて、背景をバーチャルに設定することを許可するなどの配慮も一案です。そしてルールを決めたら、定められた時以外にカメラオンを要求しないことです。

リモートワークが円滑に進むためには、会社側が対策を取ることも必要です。まずはリモートワークに関する就業規則を整備することです。「就業時間外はWeb会議を実施しない」、「会議は録画する」、「業務に必要のない一対一の会議の禁止」など、一定のルールを定めることでハラスメント防止につながります。パワハラ行為があった時の相談窓口を設置することも重要な対策になるでしょう。

さらには、サテライトオフィスの利用を導入することも一つの案です。自宅以外の場所で就業することで、プライバシーの侵害を未然に防ぐことになりますし、家族の問題や住宅事情などで、自宅で就業環境を作ることが難しい社員のためにも役立ちます。

最後に

リモートワークでは、仕事とプライベートの区別がつきにくくなります。画面上のやりとりは、制限された情報の中でお互いの意思を伝えなければならないので、対面とは異なる難しさがあります。けれども、Web会議がパワハラにつながるようなことはあってはなりません。

相手の立場に立って、個人それぞれの事情や考え方に配慮することが大切です。ルールを守り、お互いに尊重することで、リモートワークでも良好なコミュニケーションは継続できるのです。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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