仕事の上で上司が部下を叱るという場面はよくあります。叱るという行為は、部下の間違いを正し、成長させるためには必要なことです。

しかし、指導のつもりがパワハラになってしまうケースは少なくありません。前提として「怒る」ことは「叱る」ことより、本人の感情的な意味合いが強くなります。「人から怒られること」は、誰であっても不快なものですが、これが一対一ではなく、チームの全員の前で怒られたら部下はどう感じるでしょうか……?

今回は人前で怒る行為について、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が取り上げ、紹介します。

目次
人前で怒ったり、注意するのはパワハラ?
皆の前で注意する人の心理とは?
セクハラのグレーゾーンとは?
具体的な事例の紹介
最後に

人前で怒ったり、注意するのはパワハラ?

人前で怒ったり、注意することはパワハラになるでしょうか?

第三者の前で怒られると、「恥をかかされた」と屈辱を感じる人もいますが、すべてがパワハラになるとは言えません。

例えば、チームで共通の作業している時、ミスをした人にその場で注意するのはパワハラとは言えません。起こりやすいミスについてチームで共有することは必要なことでもあります。

また、一人の行動が他のメンバーに迷惑をかけていているような時も、周りの気持ちを代弁する意味で、上司が皆の前で注意することは適切といえます。

しかし、そのような例を除けば、基本的に人前で怒ることは避けた方がよいでしょう。周囲の多くの人に聞こえてしまうような環境下で大声でどなったり、長時間にわたって叱責する行為は、相手の自尊心を傷つけるだけでなく、聞いている人もいたたまれない気持ちにさせてしまいます。

部下を叱るときは、一対一で落ち着いて会話ができる場所を選ぶのが原則です。ただし、二人きりになることで不安を感じる人もいますので、別室に呼んで話す場合は、感情的にはならず、部下の話を聞くという態度で臨むことが重要です。

職場のグループLINEでのコメントも、要注意です。対面で話すのと違って、文章で注意すると冷たい印象を受けるもの。グループLINEはグループ全員が見られるものですから、人前で怒られるのと同じです。個人に注意する時は、グループLINEではなく、個別に伝えるようにしましょう。

皆の前で注意する人の心理とは?

皆の前で注意する人にはいくつかの特徴があります。ここでは、三つのタイプを挙げて解説していきましょう。

一つは、「他の部下にも指導するつもりで人前で注意するタイプ」です。

このタイプの上司は、部下全員に聞かせるために、一人をピックアップして皆の前で注意するという方法をとります。この方法は、効果がある場合もありますが、注意しやすい特定の部下だけを選んで叱っている場合が多く、選ばれた人は「見せしめにされている」という感情を抱いてしまいます。全員が対象ならば、全員に対して注意すべきです。

二つ目は、「感情にまかせて怒ってしまうタイプ」です。

このタイプは、部下の叱り方について冷静に考えることができません。ミスをしたとたん、人前でもいきなり怒るので、部下はいつ何を言われるかと委縮してしまいます。怒りをコントロールできないという点で、この上司自身がカウンセリングや研修を受ける必要がある場合もあります。

三つめは、「自分の優位性を誇示するために人前で注意するタイプ」です。

このタイプは、いわば確信犯といえます。周囲に聞こえるように大声で注意したり、上下関係を強調するような威圧的な叱責を繰り返します。たとえ部下が年上や先輩社員であっても配慮がありません。中には自らのストレス発散のために部下を怒っている場合もあります。このタイプは人前で怒ること以外にもハラスメント行為を行なっている可能性が高いです。

人前で怒る人は、この三つのタイプのうち、複数のタイプの特徴を併せ持っている人もいます。相手の心情に配慮がないという点は、三つとも共通しています。

具体的な事例の紹介

ここで、「人前で怒る人」の具体的な事例をご紹介します。

企画部のA課長はBさんの上司です。ある朝、Bさんが少し遅れて出社してきた時のことです。

「Bくん、また今日も遅刻か。ゲームで夜更かしでもしてたのか。早く嫁さんもらって起こしてもらえよ」とA課長は、チーム全員の前で大声で叱ります。

Bさんは「すみませんでした」と言って席に着いたものの、釈然としない気分です。

確かに遅刻したのは悪いことですが、Bさんが以前遅刻したのは1年以上前のこと。「また」と言われる理由はありません。おまけに、いつもBさんをからかうような余計な言葉を付け加えて周りの反応を見るので、Bさんには屈辱感が残ります。

「このプレゼン資料、データ間違えてるぞ。こんな計算もできないなんて、君は本当に理系か? 経歴詐称じゃないか?」

今朝もまた、皆の前で説教です。しかし、そのデータはA課長がBさんのデータを修正して資料に入れたもの。Bさんはその点を訴えましたが、「またいいわけか。つまらんこと言ってないで早く作り直さないと終わらないぞ」と言われる始末。Bさんは、周囲に聞かれていることが気になって、これ以上反論できません。

こんなことは日常茶飯事です。ミスをしようものなら、人前でも問答無用で怒りの言葉が飛んできます。Bさんにとって、人に聞かれたくないような話でもおかまいなし。むしろ周囲に大勢の人がいる時、部長や役員がいる時は、A課長の声は一層大きくなるのです。

Bさんのプライドはズタズタです。最近では真剣に転職を考えるようになりました。

この事例を読んで、どう思われましたか?

このような「人前で怒る上司」は、相手の自尊心を傷つけることに対して鈍感です。わざと人前でからかうような言動や、相手を馬鹿にするような叱り方をするので、相手はストレスを感じ、反発してしまいます。こういう上司のもとでは、部下はミスを恐れて、能力を十分に発揮することができません。

最後に

部下に対する「指導」や「注意」は、上司の役割でもあります。しかしながら、「人前で怒る」という行為は相手に対する配慮が足りません。意図的に人前で怒ることで周囲の意識を高めようという方法は、ほとんどの場合、単なる自己満足です。

相手を尊重する意識がなければ、指導はパワハラへとつながってしまいます。部下の心に寄り添うことのできない上司は、部下を成長させることはできないのです。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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