パワハラなどの職場のハラスメントが問題視されるようになったのは、平成20年以降のことですが、今やすっかり社会に浸透しました。

せちがらい世の中になったと嘆いている人も少なくないかもしれません。その中に、ハラスメントについて正しく理解している人は、どれだけいるでしょうか?

今回は、そんな人たちにも「なるほど」と思ってもらえるような、ハラスメントの具体的な事例を、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が紹介いたします。

目次
ハラスメントの事例にはどのようなものがある?
セクハラの事例
セクハラのグレーゾーンとは?
パワハラの事例
モラハラの事例
最後に

ハラスメントの事例にはどのようなものがある?

令和の世になり、社会の変化で新しいハラスメントが次々と生まれています。目新しいところでは、新型コロナの流行に伴い出現したハラスメントです。

コロナハラスメント、ワクチンハラスメントはその名称でわかる通り、新型コロナに感染したことのある人、ワクチンを打っていない人への偏見や嫌がらせです。新型コロナが5類に移行したことで、これらのハラスメントは減りましたが、リモートワークの定着により、リモハラなる言葉も聞かれるようになりました。在宅勤務の社員を過剰に監視したり、必要以上にプライベートに干渉する行為がそれにあたります。

性の固定概念から生じるジェンダーハラスメントや、年齢差別によるエイジハラスメントなどは、「多様性の尊重」という最近の風潮についていけない世代にありがちなハラスメントと言えるでしょう。

セクハラの事例

職場のセクシュアルハラスメントは、「環境型」と「対価型」の2種類あります。それぞれどんなものか、ここで2件の事例を取り上げてみることにしましょう。

<セクハラの具体的な事例1>

A主任は、自他ともに認めるアイドル好き。昼休みにデスクのパソコンで平然とアイドルの水着写真などを見ています。それだけでもいい気持ちはしないのに、さらに不快なのは女子社員を「ちゃん」づけで呼ぶこと。

そればかりでなく、「やっぱり若い子は、肌がピチピチしているね」などの発言をしばしば口にします。先輩の女子社員は、「相手にしなけりゃいいのよ」と言いますが、B子はA主任と話をすることを苦痛に感じています。

この事例は、周囲に不快感を与えて職場の就業環境を害する「環境型ハラスメント」です。

これに対して、性的な言動を拒否した人に対して降格などの不利益を与えるものを「対価型ハラスメント」といいます。

セクハラの概念は今や多くの人に浸透していますので、さすがに肉体関係を強要するような露骨なケースは少なくなりました。しかしながら、次のような事例も見られます。

<セクハラの具体的な事例2>

C部長は明るく気さくなタイプの上司です。C部長は、男女問わず肩をたたいたり、握手したりというボディタッチをしてきます。

D子はそれが苦手。D子が残業している時、「頑張ってね。期待してるよ」と肩をもまれた時にはぞっとしました。C部長はD子に目をかけてくれて、重要な仕事も任せてくれます。

それはありがたいのですが、困るのはC部長がカラオケ好きで、部のメンバーを頻繁にカラオケに連れていくことです。カラオケではC部長は必ずD子をデュエットに誘います。歌いながら肩に手を回したり、顔を近づけてきたり。D子はカラオケに行くことが嫌でたまりません。

セクハラのグレーゾーンとは

セクシュアルラスメントの厄介なところはいわゆる「グレーンゾーン」があることです。被害者を悩ませるのは「親しみの表現」という言葉です。

先ほど例に挙げたボディタッチなども、本人に悪意があるのかどうかわかりません。カラオケのデュエットなどはかなり確信犯的と言えますが、それですら行為を受けた側が拒否しづらいものです。「この程度で騒いだらみんなをしらけさせてしまう」、「断ったら嫌われるかも」などと忖度してしまい、我慢してしまうことが少なくありません。

けれども行為者は相手が我慢していると、「相手は嫌がっていない」と勘違いしてしまいます。その結果、ハラスメントはエスカレートしてしまうのです。

パワハラの事例

パワーハラスメントには、暴力・暴言などのほか、過大な要求をする、逆に何も仕事を与えない、などいくつかの類型があります。ここでは一つの事例を見ていきましょう。

<パワハラの具体的な事例>

E課長は声が大きく体力自慢のいわゆる体育会タイプ。きっかけは新入社員歓迎会の時のことでした。E課長は、酒に弱いF男に対して「なんで酒も飲めないのに営業に来たんだ。使えないやつだな」と突き放すように言ったのです。

F男はパソコン好きで、資料作成などは得意なのですが、E課長はノリの悪いF男がどうにも気に入りません。ことあるごとに、「お前は気が利かないやつだ」、「営業に向いていない」などと説教を繰り返したあげく、他の新人もいるのに、ごみ捨てや倉庫の整理などの雑用をいつもF男一人だけに命じるのです。

会議などにおいて、F男はまったく発言させてもらえません。結局F男は、入社1年もたたず退職していまいました。

この事例はアルコールの強要や人格への攻撃、仕事での差別などいくつかの問題を含んでいます。パワハラの行為者は、他人の個性を尊重することができないのです。

モラハラの事例

モラハラはパワハラと似ている部分もありますが、必ずしも地位の優位性は関係ありません。同僚同士、地域社会、家庭内でも起こります。ここでは職場でよくある事例を紹介します。

<モラハラの具体的な事例1>

中途入社のG子が配属されたのは、ベテランのパート社員が多い部署。なかでもパート・リーダー格のHは、G子のことが気に入らないようで嫌がらせをしてきます。

挨拶しても無視する、パート社員のグループでG子の陰口をたたく、といった調子です。お土産のお菓子が配られない、飲み会にも誘われないといったことは日常茶飯事。ついには仕事の連絡も伝えてくれず、それがもとでG子はミスをして上司に叱責される羽目に……。そんなことが続いて、G子は体調を崩してしまいました。

これは、集団で気に入らない人間を排除しようとするモラハラの典型です。子供のいじめの世界に近い事例と言えるでしょう。

最後に

いかがでしたでしょうか? 皆さんの職場でも、どこかで似たようなことが起こっているのではないでしょうか?

ハラスメント行為をする人は、自己中心的で相手の痛みがわからないのです。「悪気はない」などいう言葉で甘く考えてはいけません。職場ハラスメント対策は、事業主が防止措置を講じることが法律によって、義務付けられています(詳しくは「法改正で強化!『職場のハラスメント対策』」の記事を参照)。

他人の人格を尊重する意識がなければ、ハラスメントはなくならないのです。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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