職場における言葉づかいには一定のルールがあります。顧客など外部の人、上司には敬語をつかうのが常識です。同僚や部下に対しても、ビジネスの場にふさわしい言葉をつかうのが望ましいといえます。

とはいえ、実際はフランクな言葉で話すことが多いのが現状ではないでしょうか? しかしながら職場では、くだけ過ぎた言葉づかいや敬称をつけない呼び方をすることはトラブルにつながることもあります。今回は、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が紹介いたします。

目次
職場で「お前」呼ばわりするのはパワハラか?
「お前」呼ばわりする心理とは? 実際の事例から考える
最後に

職場で「お前」呼ばわりするのはパワハラか?

職場では部下のことをどのように呼んでいるでしょうか? 〇〇さん、〇〇くんのほか、君(きみ)、お前などと呼ぶ場合もあるかと思います。この「お前」という呼び方は要注意です。パワハラと受け取られることもあるからです。

「お前と呼ぶのがなぜパワハラなの?」と思われる方もいるでしょう。確かに「お前」と呼んだだけで、即パワハラと認定されるわけではありませんが、ケース・バイ・ケースと言えます。普段から威圧的な言い方をする人は、「お前」と呼ぶことがその人の人格の象徴ととられる場合もあるのです。

世の中には「お前」は普通と考える人もいますが、そんな呼び方をされたことがないという人もいます。そういう人にとっては、叱責を受ける場面などで「お前」呼ばわりされると、強い屈辱感からパワハラを受けたと感じてしまうのです。

もともと「お前」という呼び方は、ビジネスの場にふさわしいとは言えません。この「お前」呼ばわりについて、後ほど具体的な事例をあげて解説します。

呼び捨ては、どう捉えられる?

「お前」呼ばわりの事例を挙げる前に、一つとりあげたいことがあります。それは“名前の呼び捨て”です。呼び捨ては、果たしてパワハラにあたるでしょうか?

結論としては、名前を呼び捨てにすることだけでパワハラであるとは言えません。

しかし、次のようなケースは注意が必要です。

  • 以前、“さん”付けで呼んでいた人を、自分が昇進したからという理由で呼び捨てにする。
  • 年上の部下、先輩社員を呼び捨てにする。
  • 威圧的な態度、強い口調で呼び捨てにする。

このようなケースでは相手は不快に感じ、パワハラと受け取られることもあります。それから、姓ではなく、「カオリ」「アキラ」など、下の名前で呼び捨てにすることは基本的にはNGです。よほどフレンドリーな会社でない限り、下の名前の呼び捨ては、「なれなれしすぎて緊張感がない」と思われる場合が多いといえます。また、相手が異性の場合はセクハラだととられかねません。

やはり職場では、適度な距離感をもった呼び方がふさわしいと言えるでしょう。

「お前」呼ばわりする心理とは? 実際の事例から考える

さて、ここから本題である「お前」呼ばわりの具体的な事例についてとりあげてみることにします。

【具体的な事例】

営業部のA課長と部下のBさんは、同じ大学の先輩と後輩の関係です。アメフト部出身のBさんは明るくて積極的な性格。ラグビー部出身のA課長にとって、同じ体育会系のBさんは「ウマが合う」相手です。二人の関係は良好で、いつもこんな感じの会話を交わしていました。

「今月もお前が売り上げトップか。やっぱり、あのプレゼンが良かったな」
「あれは、課長のアドバイスのおかげですよ。さすが課長って感じです」
「お前はこれからもその調子でがんばれよ」

A課長は内心、自分のことを「部下に信頼されるいい上司」だと思っていました。Bさんが異動になるまでは……。

秋の人事異動でBさんは、海外支社に栄転となりました。A課長にとってかわいがっていた部下を失うのは残念でしたが、「また次の部下とも良い関係を作っていこう」と思っていました。

ところが、Bさんの代わりに異動してきたCさんは、口数が少なくパソコン好きのいわゆるオタク系。Bさんとは真逆のタイプです。データの分析などは優秀なのですが、Bさんのようなノリの良さはなく、A課長とCさんはどうもしっくりきません。

取引先との接待が終わった後、A課長はCさんに注意をしました。「お前も前任のBみたいにもっと場を盛り上げてもらわないと困るよ。お前は営業だろ」。Cさんはしばらく沈黙していましたが、やがて「わかりました」と言ってその場は収まりました。しかし、その後もA課長とCさんの間はぎくしゃくしたまま……。

A課長はCさんのことを「お前は積極性が足りない」「お前も営業らしく気合を入れろ」などと叱責することが多くなりました。そんなある日、Cさんは転職を理由に退職を申し出てきました。A課長は転職なら仕方ないと受け入れましたが、その後Cさんの同期の社員から、退職の本当の理由を聞いて衝撃を受けました。転職は表向きで、本当は課長のパワハラに耐えられないと言っていたというのです。

「え? 俺がパワハラ?」A課長は寝耳に水でした。聞くところによると「課長はいつも僕を“お前”呼ばわりする。ただでさえ納得できないことで怒られるのに、“お前、お前”と呼ばれたのでは、奴隷のようでみじめさを感じる」、これがCさんの言い分だそうです。

「お前呼びは親しみの表現じゃないか。前任のBにだっていつも“お前”と呼んでいても何も問題なかったのに……」、A課長は頭をかかえてしまいました。

いかがでしょうか? もちろんA課長にも同情すべき点はあります。しかし、前任のBさんとA課長は大学の先輩・後輩であり、性格の相性も良く、信頼関係が築かれていました。異動してきたばかりのCさんとA課長はそこまでの関係ではありません。A課長が、「お前呼びは親しみの表現だ」と言っても無理があります。

Cさんは、「お前」呼ばわりされることを「優越性を誇示されている」と感じ、叱責を素直に受け止めることができませんでした。さらに、A課長のことを「独りよがりで部下の心情に配慮しない上司」として失望していたのでした。

A課長は、自分だけの尺度で「お前」呼びを繰り返し、相手が傷ついていることに気がつかなかったのです。

最後に

今回のテーマについて、上司の立場にいる方はどのように受け止められたでしょうか? 中には「お前」がパワハラだったら、何も言えないじゃないかという人もいるかと思います。部下を指導することに対して、過度に萎縮する必要はありません。要は、自分の価値観に固執して他者への理解がないことが問題なのです。

親しき仲にも礼儀あり。職場では、呼び方ひとつでも、相手を尊重する意識を持つことが大切です。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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