仕事をしていく上で、上司と部下2人きりの状況になることはあるものです。もちろん、残業や出張など、業務の流れの中でたまたま2人きりになることもありますが、注意しなければならないのは、上司の側から部下と2人きりの場を設定するケースです。

周囲の人の目がない環境は、時としてセクハラ・パワハラの温床になってしまうこともあります。今回は、「上司と部下2人きり」の状況について、注意すべきことを部下・上司それぞれの視点から、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説します。

目次
上司と部下が「2人きり」になるのはパワハラに当たる?
2人きりの時にパワハラされた実例
気づいたらパワハラにならないように心がけたいこと
最後に

上司と部下が「2人きり」になるのはパワハラに当たる?

上司と「2人きり」という状況になったら、部下はどのように感じるでしょうか? 普段から、上司と2人で仕事をすることに慣れている場合は別ですが、2人きりだと緊張してしまう人も多いかと思います。もちろん、上司と部下が2人きりになることが即パワハラにつながるとはいえません。

部下から相談を受けた場合など、むしろ2人で話すことが必要な場合もあります。部下が上司に相談を求めてくる時は、プライベートな悩みや退職の相談など、チームの他のメンバーに聞かれたくない問題を抱えていることが多いものです。

こうした場合は、部下と2人になれる落ち着いた環境でじっくりと話を聞いたほうが良いでしょう。一方、上司の側から、部下に2人きりの場を求める場合もあります。例えば、部下に対して注意・叱責する時は、本人や周囲に対する配慮として、1対1の場で話すことが望ましいといえます。

また、 転勤や昇進など、本人のみに人事の話を内示する場合も、他の人に聞かれないような場で伝えるほうが良いでしょう。しかしながら、2人で話す必要性があるわけでもないのに、食事などに特定の部下1人だけを誘うのは好ましくありません。慰労することが目的ならば、他の人にも声をかけることを心がけるべきです。

2人きりの時にパワハラされた実例

2人きりの状況で実際にハラスメント行為が起こる場合もあります。明らかにアウトと言えるケースは少なくなりましたが、グレーゾーンに当たる行為はまだ数多く見られるのが現状です。

ここでは、2つの事例を部下の視点から解説していきます。

事例1

営業部のA課長はB子の上司です。

B子は、母親の介護の件でA課長に相談し、残業の多い業務の担当を外してもらいました。A課長は親身に相談にのってくれて、仕事の引継ぎなどにも協力してくれました。そこまでは良かったのです。

B子はある日突然、A課長から食事に誘われました。自分1人だけという状況に戸惑いを感じましたが、母親のことでお世話になったという意識もあり、行かざるを得ませんでした。A課長が食事の場に選んだのは、個室の焼肉店でした。個室で2人きりである上、A課長が焼肉をB子の皿に取ってくれたりするので、B子は話に集中することができません。

会計はA課長が払ってくれました。「ありがとうございます。こんな高級な店でごちそうになって申し訳ありません。家のことは大丈夫ですから」。こう言うことで、B子はやんわりと今回限りで、という意思を示したつもりでいました。しかし、課長はいつになく上機嫌で、「もっと気軽な店の方がいいかな。じゃあ、今度はお好み焼きでね」と言って、B子の肩を叩くのです。B子はすっかり憂鬱になってしまいました。

事例2

商品企画部のC課長は、Dの上司であり、同じ大学出身の先輩でもあります。このC課長、何かとDに目をかけてくれて、打ち合わせと称してD1人だけを食事に誘うことがしばしばあります。誘われるたびに、Dは同僚に冷ややかな目で見られているようで気になって仕方がありません。

C課長は2人だけになると、「君だけを見込んで頼みたいことがある」などと言って、本来課長がやるべき仕事も押し付けてくるので、Dはいつも負担に感じています。Dが課長から依頼された仕事を他のメンバーに分担することを申し出ても、「あいつは駄目だ。君でないとできないよ」と聞き入れてくれません。「このままでは、課長にいいように利用されてしまう……」と、Dは毎日焦りと不安を感じています。

これら2つの事例をどう思われるでしょうか?

どちらもはっきりとセクハラ・パワハラと受け取られるような行為は、ありません。だからこそ部下は声を上げづらく、さらなる苦境に陥る可能性があるのです。部下が曖昧な態度を取り続けていると、行為はエスカレートしがち。事例1の場合は今後セクハラに発展することが考えられますし、事例2では上司の派閥に組み込まれたり、不正に加担させられることがないとは言えません。

もし上司から、気の進まない「2人だけの食事」を誘われた場合は、次の2点について確認しましょう。

1.どのような用件なのか確認し、業務時間内に話をしたいとお願いする

2.慰労会などの名目であった場合、「他のメンバーと一緒なら」と伝える

このような返事をすれば、上司に自分の意思は伝わるかと思います。やむを得ず行くことになってしまった場合、防衛策を取ることも必要です。言葉だけで指示された時は、上司宛に打ち合わせの事実確認のメールを送ることも一つの方法です。可能ならば、同僚などにその事実を伝えておくと良いでしょう。基本的に業務の問題はオープンにして、上司と「2人だけの秘密」などは持たないことです。

気づいたらパワハラにならないように心がけたいこと

部下と2人きりの状況は、上司にとってもリスクがあります。部下と1対1で話す場合は、相手に不安を与えないよう、2人で話す目的をきちんと伝え、会う事実は周囲に隠さずオープンにしましょう。断られることがあっても、その後も態度は変えないことです。

実際に会って話すときも、

1.アルコールを無理にすすめる

2.プライベートなことをしつこく聞く

3.体に触る

この3点の行為は、絶対に慎しまなければなりません。ハラスメントととられる可能性大です。また、「ほかの人には秘密」「君だけは特別」などと、相手に過剰な負担をかける言葉は控えましょう。部下を指導する立場として、節度を保って話すことが重要です。

最後に

部下と2人きりの状況がハラスメントにつながるかどうかは、日ごろのコミュニケーションにかかっています。相手の価値観、心情に配慮することを忘れてはなりません。お互いを尊重することで、上司と部下の信頼関係は築かれるのです。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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