文・晏生莉衣

世界が注視するアメリカ大統領選挙後の混乱。今回もこの話題から、人物を表す英語表現を学びます。前回レッスンのキーワード「good loser」(良き敗者)と同様、政治分野に限らず、一般的に広く使われるカジュアルな言い回しをピックアップしていますので、覚えておくと英語のリスニングの助けになるだけでなく、ネイティブ流のスピーキングにも役立ちます。文中では、キーワード以外にも英語表記をつけていますので、参考にしてください。サラリと使って一段上の英会話をめざしましょう。

「go-getter」

「行って(go)、ゲットする(get)人」。直訳から推測できると思いますが、やり手の人、手腕家という意味です。“XX is a go-getter.”(「XXはやり手だ」)と、野心を持って目的を達成する実力派の人をこんなふうに言いますが、必ずしも悪い意味で使われるわけではありません。あまりにambitious(野心的)になりすぎると反感を買ってしまいますが、大統領になるという大志は、go-getterでないとなかなか成就することはできないでしょう。

「game changer」

直訳で「ゲームを変える人」。意味は読み取れますね。試合の流れを一気に変えるようなプレイヤーというのが元々の意味ですが、世の中を一変させるような画期的な出来事や革新的なアイデアなどについてもこの表現が使われます。“It’s a game changer!” をそのまま訳せば「これはゲームチャンジャーだ!」と言っているわけですが、「まさしく素晴らしい!」というような驚嘆や感嘆の気持ちが込められています。アメリカ史上初の「女性」「黒人」「アジア系」副大統領(Vice President)に民主党のカマラ・ハリス候補が選ばれたことは、game changerと呼ばれるにふさわしい出来事となりました。

「cliffhanger」

cliff hangerとも書きます。cliff は崖(クリフ)、hangerは服をかけるハンガーと同じで、「ぶら下がる、かかる、つるす」という意味ですから、cliffhangerは、崖にぶら下がっている人やもの。転じて、「最後まで結果がわからない競争や試合」のことをさします。また、崖っぷちに追い詰められたような絶体絶命の場面で終わり、次回に続く連続ドラマをこう呼ぶこともあります。

「nail-biter」

nailはネイルでおなじみの「爪」、biteは「噛む(かむ)」という意味ですから、nail-biterは直訳で「爪を噛む人」(ネイルバイター)。人物表現から転じて、先の展開が読めず、不安や緊張で思わず爪を噛んでしまうような状況をさして使います。なかなか決着がつかない事態を意味するのは上記のcliffhangerと同じですが、cliffhangerは戦っている当事者の置かれた状況を表すのに対し、nail-biterは観戦者や見守っている人たちの心理を表現しているという違いがあります。今回の大統領選挙の州ごとの開票作業が長引く中、この表現がよく使われました。

「rabble-rouser」

これはちょっと上級ワードでむずかしいかもしれません。rabbleは「無秩序な群衆や暴徒」、rouseは「目覚めさせる、奮起させる、かきたてる」といった意味です。これをつなげたrabble-rouserで「煽動家」ということになります。人々をかき立てて憎しみや暴力を煽る人物について使われる表現です。デモで衝突が起こったというような状況でよく使われます。

「loose cannon」

looseは「解き放たれた、自由な、ゆるんだ」という意味、cannonは大砲、機関銃のこと。これを合わせたloose cannonで「予測不能、コントロール不能な危険人物」を意味します。“XX is a loose cannon.”(「XXは危険人物だ」)というような言い方をします。
面白い表現ですが、由来は、歴史をさかのぼって船上の武器として使われていた大砲が、しっかりと固定されていないと制御不可能となって危険だったことにあります。「loose cannonは危険」という認識から、それが人物表現に転用されて、勝手な行動を取り、何をするかわからないので信頼できないだけでなく、周囲に損害を与えかねない危険のある人という意味で使われるようになりました。上記のrabble-rouser同様、悪いイメージです。ホラ吹きという意味も。政治の世界の中傷合戦などでよく耳にする表現です。

ここで一つ、発音についての注意です。looseをカタカナにした「ルーズソックス」や「ルーズリーフ」という商品の呼び方がありますが、「ルーズ」というのは英語の発音としては正しくありません。looseのseは濁った音ではなく、「ルース」に近い発音になります。loose cannonを日本風に「ルーズキャノン」と言っても英会話中の相手には伝わらないので、正しく発音するように心がけてください。

「lifesaver」

life saverとも書きます。文字通り、「命を救う人」という意味ですが、日本ではいつの頃からか、ビーチやプールで水の事故防止や救命救助にあたる人を「ライフセーバー」と呼ぶようになりました。シニア世代にとっては「プール監視員」「救命員」というほうが、いまだに馴染み深いかもしれません。

英語では、日本で言う「ライフセーバー」と同義でも用いられますが、もっと一般的に、生命にかかわらないような場面でも使われます。よくあるのは、何かピンチに陥った時に手助けしてくれた人に対して、“You are a lifesaver!” と言うパターンです。残業しても一人ではこなせないような仕事をかかえてしまった時に、同僚が一緒に残って手伝ってくれたとか、何か必要なものを忘れてしまった時に、誰かが持っていた予備を貸してくれたとか、そんな「困った、どうしよう…」状態の自分にスッと救いの手を差し伸べてくれた相手に、「本当に助かった、ありがとう」という気持ちを込めて、Thank you とともにこう言って、心からの感謝を伝えます。ちょっとした命の恩人というわけですね。

人を表すだけでなく、物事や出来事についても使われます。Obamacare(オバマケア)と呼ばれるオバマ前大統領による医療制度改革法は、日本のような国による医療保険制度のないアメリカで、誰もが医療保険に加入できるように改革したことから、多くの国民にとってlifesaverとなったと言われています。今年のアメリカ大統領選挙では、このObamacareも争点の1つとなりました。

アメリカ上院の「タイブレーカー」とは

最後に、人を表す表現というわけではないのですが、関連ワードとして同類形の「tiebreaker」を付け足しておきましょう。tie-breakerとも書きます。「タイブレーク」はスポーツ、特にテニスの試合でよく使われる用語ですから耳なじみがあるのではないでしょうか。tieは試合やコンテストで同点となること。breakは壊す、破るという意味ですから、均衡を破るということですね。同点や均衡を破って勝者を決定するための方法やルールがtiebreakerです。

アメリカの上院(Senate)では、憲法の定めにより副大統領が議長(President of the Senate)に就きます。上院は定員100名で、法案の採決を行った際、可否が同数となることがあります。その場合、tiebreakerとして、上院議長である副大統領が1票を投じて決着をつけます。副大統領はこうした場合のみ投票できるのですが、この票はtiebreaking voteと呼ばれています。

今回の大統領選と同時に行われた上院議員選挙では、大統領選挙同様に大接戦となった激戦州(battleground state)のジョージア州で、来年1月に決選投票が行われることになりました。上院で民主党、共和党のどちらがマジョリティ(majority:多数派)となるかを決める重要な投票となりますが、tiebreakerの役割を果たす副大統領がどちらの党から選ばれるかによっても、上院運営は変わってきます。

文・晏生莉衣(Marii Anjo)
教育学博士。20年以上にわたり、海外研究調査や国際協力活動に従事。平和構築関連の研究や国際交流・異文化理解に関するコンサルタントを行っている。近著に国際貢献を考える『他国防衛ミッション』(大学教育出版)。

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