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ジェンダー ニュートラル|誰も排除しない言葉遣いができますか?【世界が変わる異文化理解レッスン 基礎編 6】

文/晏生莉衣

ジェンダー ニュートラル|誰も排除しない言葉遣いができますか?

ラグビーワールドカップ、東京オリンピック・パラリンピックと、世界中から多くの外国人が日本を訪れる機会が続きます。楽しく有意義な国際交流が行われるよう願いを込めて、英語のトピックスや国際教養のエッセンスを紹介します。

* * *

英語で「警察官」のことをなんと言いますか?
そんなの簡単。ポリスマンでしょ?
そう答えたあなたは見事、不正解です。
なぜなら、警察官は男性だけではありませんから。ポリスマンは英語で書くとpoliceman。文字通り、男性の警察官の意味ですので、女性の警察官にむかって「ポリスマン」というのはおかしいのです。

ではなんと呼べばよいのでしょうか。正解は、“police officer” (ポリス オフィサー)です。警官に呼びかける時には、単に“officer!”と言います。ポリスマンという言い方は英語圏でも以前は広く使われていましたが、女性の社会進出が進むにつれ、職業の名称を男女で分けない呼び方が生まれていきました。

こうした新しい言葉使いを “gender neutral language”といいます。

“neutral”(ニュートラル)は、中立的な、偏っていない、という意味ですから、“gender neutral”(ジェンダー ニュートラル)で、ジェンダーの偏りのない、男女区別をしない、という意味になります。特徴で人を排除しない、誰に対しても包括的に使える、という意味で、 “gender inclusive”とも言われます。 “inclusive” は、包括的な、包含的な、という意味です。

police officerの他にも、
「消防士」は “fireman” ではなく “firefighter”
「郵便配達人」は “mailman”ではなく “mail carrier” “letter carrier” “postal worker”
「修繕屋」は “handyman”ではなく“repair person” “maintenance worker”
等々、女性をその職業から排除するような呼び方は現在、使われなくなっています。ちょっと上級の例ですが、国際会議などの「議長」は “chairman”ではなく “chairperson” と言うのが正しい呼称です。短く “chair”とすることもあります。

「セールスマン」(salesman) は日本語でもなじみがありますが、これももはや死語で、 “salesperson” や“sales representative” と言います。

職業の総称だけではありません。 「人類」は “mankind”  ではなく “humanity” や“humankind”、「労働力」、「人的資源」という意味の “manpower”は “human power”というように、“man”(男性)を “human”(人間)に置き換える言い方が使われるようになっています。“Human”への置き換えだけなく、manpowerは “workforce”、“staff” といった表現もされます。

さらに、英語のスピーチやアナウンスでは、 “Ladies and gentlemen,”という呼びかけがよく使われますが、この慣用句についても今後は変わっていくかもしれません。すでに、ニューヨークやロンドンの地下鉄では、車内放送でこの慣用句を使わず、 “Passengers”(乗客の皆様)、 “Everyone”(皆様) というようなジェンダーレスな呼びかけをする方針が打ち出されています。

こうした言葉のチョイスや表現の変化は、Political Correctness(ポリティカル コレクトネス)という概念に基づくものです。その意味するところは時代とともに少しずつ変わっていますが、現在は “PC”という略語で定着し、一般に、政治的に不適切な言葉使いではないかを判断する際に用いられます。政治的に不適切というのもいろいろな解釈がありますが、男女差別やマイノリティへの差別や偏見と受け取られる表現は、“politically incorrect”(政治的に正しくない)として使用が避けられるようになったことが、「ジェンダー ニュートラル」な言葉の使用が求められるようになった背景です。現在は、表現だけでなく差別的な行動も“PC”の判断対象に含まれることが多く、さらにLGBTQへの配慮という視点も加わっています。

日本では…

冒頭の例に出した「警察官」は、英語の「ポリス オフィサー」同様に性別のない表現ですが、そもそも、日本では警察官は男性しかつけない官職でしたから、警察官すなわち男性警察官だったわけです。つまり、「警察官」は「ポリスマン」そのものでした。第二次世界大戦後に女性が警察官として採用されてからは、「婦人警官」という名称が長らく使われていましたが、1999年施行の改正男女雇用機会均等法によって「女性警察官」に変更されました。現在の「警察官」は男女を特定しない総称として使われていますので、ジェンダー ニュートラルな「ポリス オフィサー」と同義と考えられます。

時代をさかのぼれば、警察官に限らず、日本では専門職は男性が就くものという認識でした。そのような中で、看護や保育の仕事は家庭での妻や母の務めが職業化されたものという考えから、女性が就く専門職種ということになり、国の制度上で「看護婦」や「保母」のように女性を表す名称が定められました。こうして長らく女性の仕事とされて「看護婦」さんや「保母」さんと呼ばれてきた職業に、1985年制定の男女雇用機会均等法をきっかけとして男性の参画が増え、その後、名称はそれぞれ「看護師」「保育士」と改められました。これらの性別のない名称への変更は2000年前後のことですが、英語圏での動きは1980年代から始まっていましたから、日本は20年近く遅れています。ちなみに英語では、看護師は “nurse”、保育士は “nursery teacher”、“preschool teacher”などと呼ばれ、いずれも性別にはかかわりません。

社会変革によって創り出されてきた“gender neutral language”ですが、日本人は英語を使う際に、これに関するミスをしてしまいがちです。悪気はなくても、不適切としてもう使われなくなった呼称や表現を今でも使ってしまうと、日本人は「差別に疎い」「社会常識に欠ける」と思われて、相手の気分を害したり、不信感を生んだりと、温かいおもてなしの国際交流の努力が無駄になってしまう可能性があります。そんなことになってはすごく残念ですね。ジェンダー ニュートラルな呼称はクリエーティブなものが多いので、「なるほど、これはこんなふうに言い換えるのだな」と、楽しんで覚えてください。

文・晏生莉衣(あんじょうまりい)
東京生まれ。コロンビア大学博士課程修了。教育学博士。二十年以上にわたり、海外で研究調査や国際協力活動に従事後、現在は日本人の国際コンピテンシー向上に関するアドバイザリーや平和構築・紛争解決の研究を行っている。

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