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取材・文/坂口鈴香

あるケアラーズカフェに伺った。介護経験のある女性が7年前、介護する人が気軽に立ち寄って話のできる場をつくりたいと、亡くなった母親の家を改装して開いた介護者サロンだ。介護の悩みを打ち明けたり、カフェでお茶を飲んだりするだけでもいい。お弁当を食べにくる人もいる。最寄り駅からは遠く、決して便利な場所にあるわけではないが、コロナ禍でも賑わっていた。

杉浦朋美さん(仮名・44)もかつては、このケアラーズカフェの常連だった。今も顔を出すと、顔なじみのボランティアスタッフに近況を報告する。

「杉浦さんが初めてここにいらっしゃったころはまだ30代でした。当時、利用される方のほとんどが70~80代だったので、とにかく若かったですね。独身で、介護のために仕事も辞めたと聞いて大変心配しました」と、ケアラーズカフェを運営する女性は当時を振り返る。

母の介護で仕事を辞める

杉浦さんは就職氷河期世代。これまで一度も正社員として採用された経験がないという。契約社員や派遣社員として働きながら、実家で両親と暮らしてきた。

60代の母親にステージ4のがんが見つかったのは2008年。杉浦さんは32歳だった。

「もう治ることはないだろうと覚悟しました。当時私は派遣社員だったんですが、派遣先の会社の労働環境が悪く、有給休暇も取れない状況でした。これでは母の具合が悪くなっても休めないので、仕事を辞めることにしました」

父親はまだ現役で働いていたものの、杉浦さんも働かないわけにはいかない。休みやすい仕事を、と近所でパートの仕事を探した。

手術を受けた母親は、幸いなことに再発もなく、しばらく平和な日が続いた。

「うれしい誤算でした」

しかし、3年ほど後、転移が見つかる。抗がん剤治療のため、通院する母親に付き添った杉浦さんは、「フルタイムの仕事じゃなくてよかった」と安堵した。

介護認定が間に合わない

入退院を繰り返す母親を介護していたが、半年ほどすると急激に衰弱していった。

「抗がん剤が効かなくなり、食事もとれません。母に残された時間はもうそんなに多くないと思い、パートも辞めることにしました」

ちょうどそのころ、親をがんで亡くした友人から、がん末期にも介護保険が使えると聞き、申請することにした。

「ところが、介護認定はすぐには下りないんですね。1か月以上かかってしまい、母の病状悪化の方が速かったんです。お医者さんにも予想以上だと言われるほど、ジェットコースターのようなレベル低下で、とうとう介護保険を使えないまま母は亡くなってしまいました」

誰かが、介護保険を申請中でも介護サービスを利用できることを教えてくれていれば……と思ったが、杉浦さんにはそうした情報は入らなかった。

最期の帰宅になるかもしれないと一時退院した母親を、杉浦さんは一人で介護するしかなかった。

「たまたま伯母が、亡くなった祖母を介護するときに使っていた介護用ベッドとポータブルトイレを残していたので、それを借りることができました。でも、介護のやり方もわからなかったし、訪問看護も利用していなかったので、入浴もさせられなくて床ずれもできてしまいました。せめて入浴だけでもさせたいと自費で業者さんを頼んだのですが、間に合いませんでした」

母親は最期まで意識はしっかりしていた、と杉浦さんは振り返る。

「プライドがあったのか、トイレに行くのに体がきつくても、私や父に言わなかったんです。それで間に合わなくて汚してしまうこともあって、そんな母を見るのもつらかったです」

母親が亡くなったのは、70歳になる直前だった。父親が70代でも現役で仕事をしていたこともあり、家計はすべて母親が管理していた。そのうえ杉浦さん父娘は、母親に告知をしていなかった。

「そのため、母に通帳や印鑑の置き場所や、葬儀に誰を呼んでほしいかなどまったく聞けていなかったんです。母はうすうす自分の病気に気がついていたとは思いますが……」

結局、葬儀に母親の友人を呼ぶことはできず、葬儀費用は杉浦さんの貯金でまかなった。

「結局、通帳は出てきましたが、解約手続きで母の来歴がわかる戸籍などの書類を集めたりするのが大変でした。亡くなってもそれで終わりじゃないと、しみじみ思いました。1周忌くらいまでは、お墓を建てたり仏壇を買ったりとバタバタしていた気がします。仕事もしていなかったので、時間に余裕はあったんですが」

「母が亡くなっても終わりじゃない」――杉浦さんの言葉は、まさにその通りになった。

第2回に続きます】

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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