文・石川真禧照(自動車生活探険家)
小型で燃費や操作性の良い自動車が売れ筋となって久しいが、根強いファンに支え続けられながら名車へと育つ車もある。スズキのジムニーシエラの“無骨さ”には、運転することのまた違った楽しみが見出せる。
スズキのジムニーといえば、軽自動車では唯一のオフロード型4輪駆動車として知られている。1970年の発売後、改良を重ねながら現在も販売される人気車だ。ジムニーシエラは、ジムニーよりも7年遅く登場したオフロード型の小型4輪駆動車。基本的な構造はジムニーと同じだが、エンジンは排気量を拡大。車体も全幅を拡げて、軽自動車ではなく、小型車として登録されている。
現行型は2018年の発売以来、今も人気が高く、納車待ちの状態。今回は2022年6月に若干の手直しがされたのを機に、5段手動変速の車に試乗した。
渋滞でも疲れは少ない
ブレーキとクラッチペダルを踏み込み、エンジンをかける。1速に変速し、アクセルとクラッチを調整しながら、発進する。AT車はアクセルを踏めば車速は上昇するが、手動変速のシエラは変速の度にクラッチを左足で操作する。3つのペダルを操りながら走り、文字どおり、車を操る感覚がある。
新開発の1.5Lガソリンエンジンはパワー、トルクも充分で、5段手動変速機との相性は悪くない。クラッチペダルを踏み込んだ時の反発力も強くなく、渋滞でも疲れは少なかった。変速時のレバーの動きもかっちりしている。着座位置が高めなので視界が良い。車両重量は軽めで、世界最軽量クラスだ。
そもそも市販中の国産乗用車で手動変速機を選べるのは数車種しかない。競技などにも出場できるスポーツタイプか、営業用の低価格帯の車が多い。この点でも、ジムニーシエラは世界でも珍しいタイプの車だ。
クラッチとアクセルの操作にはAT車の運転とは違う緊張感も
シエラも軽のジムニーも手動変速のモデルを揃えている。販売の主役はAT車だが、手動変速車にも根強いファンがいるという。
シエラの手動変速車を日常の足として、街中から高速道路まで走行してみたが、AT車を運転している時とは異なる緊張感があった。
その理由は変速機の操作にある。1速に変速するにはクラッチペダルを床まで踏み込む。1速に変速してもクラッチペダルとアクセルペダルの両方を上手に操作しないと、車は動き出さない。交差点などの左折時もブレーキで減速したら、クラッチペダルを踏み込み、変速しないと、次の加速ができない。アクセルとブレーキだけで走るAT車に比べ、実際に車を運転するということは、無意識に多くのことを行なっていることが手動変速車を運転してみるとよくわかる。
昨今、高年齢者の運転免許証の返上を推奨する動きがあるが、自分の運転能力がどれほどなのか、手動変速車の運転は、その見極めの手段にもなる。こうした操作がスムーズにできなくなったら、免許証を返上することを考え始めるべきかもしれない。ふと頭の中でこの考えが浮かんだ。
スズキ/ジムニーシエラJC
全長×全幅×全高:3550×1645×1730mm
ホイールベース:2250mm
車両重量:1080kg
エンジン:直列4気筒DOHC/1460cc
最高出力:102PS/6000rpm
最大トルク:13.3kg-m/4000rpm
駆動方式:パートタイム4WD
燃料消費率:15.4km/L(WLTCモード)
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン 40L
ミッション形式:5段手動
サスペンション:前 後・3リンク式
ブレーキ形式:前・ディスク 後・ドラム
乗車定員:4名
車両価格:198万5500円
問い合わせ先:お客様相談室 0120・402・253
文/石川真禧照(自動車生活探険家)
撮影/佐藤靖彦
※この記事は『サライ』本誌2022年12月号より転載しました。