人には運命を踏んで立つ力がある!幸田家に伝わる「生きる元気が出てくる言葉」2つ

東京・小石川の蝸牛庵にて。前列左から文さん、玉さん、文さんの夫・三橋幾之助さん。後列左から幾之助さんの母、露伴、露伴の後妻・八代さん

文/酒寄美智子

2017年は、明治の文豪・幸田露伴の生誕150周年にあたります。その露伴を曾祖父に、作家・幸田文さんを祖母に、随筆家・青木玉さんを母に持ち、自身もエッセイストとして活躍する青木奈緒さんの著書『幸田家のことば 知る知らぬの種をまく』(小学館)には、“生きるための知恵”がちりばめられています。

青木奈緒さん 撮影/五十嵐美弥

今回は同書から、「自分の力ではどうにもならない状況」に立ち向かうときに役立つことばを2つご紹介します。

■1:「人には運命を踏んで立つ力があるものだ」

自分ではどうしようもない先天的な状況にあっても、転じて福となすことができるよう、後天的運命として切りひらけ――そんなメッセージのこもったことば。露伴が娘・文さんに伝え、それを文さんが回想し随筆「みそっかす」の中に残したものです。

“自分ではどうしようもない先天的な状況”という表現から、2011年の東日本大震災や昨年発生した熊本地震など、大規模な自然災害を思い浮かべた方もいらっしゃるかもしれません。奈緒さん自身、このことばを目にしたとき、「脳裏には震災の報道で目にした映像がありありと浮かんでいた」(本書より)といいます。

このことば自体は災害とは無縁の文脈の中で語られたものですが、奈緒さんにとっては「我慢しようにも我慢できない、けれどそうするしかない状況を乗り越えようとするとき、励ましてくれることば」であり、目にした瞬間に「震災以来、探していたことばの力を見つけた」(いずれも本書より)と感じたそう。

このことばに露伴が込めた思いはどんなものであったのか。奈緒さんは本書の中で、露伴の随筆「運命は切り開くもの」を手掛かりとして引いています。

この随筆の中で露伴は、持って生まれた運命を“先天的運命”、自分の心がけや行動で変えていくことができるものを“後天的運命”と呼び、「自己の修治によって後天的運命を開拓して、或(あるい)は先天的な運命を善きが上にも善くし、或は後天的運命の悪いのをも善くして行くのが、真の立派な人”である」と持論を展開しています。

運命は変えることができる、とはよく聞くフレーズですが、どこか抽象的なつかみどころのなさも漂うもの。対して「踏んで立つ」には、曖昧さはまったくありません。なんとしてもよいほうに向かっていくぞ、という強い意志を持ったことばです。

■2:「下手の考え休むに似たり」

奈緒さんが「小さいころによく言われた」という、このことば。辞書を引くと、囲碁や将棋などで「へたな人の考えることは時間をむだにするだけで、なんの役にもたたない」(小学館『新選国語辞典 第九版』より)などと書かれています。

ですが、奈緒さんが「(考える)暇があるなら、さっさと身体を動かし、目先の仕事を片づけるべし。凡人は凡人なりに、手を動かしている間に道がひらけることもあろうというのだ」(本書より)と綴るように、幸田家では一歩踏み込み、前向きな意味を持つことばとして捉えています。

これを示すのが、奈緒さんの祖母・幸田文さんのエピソードです。大正12年の関東大震災時19歳だった文さんは、最初のゆれがおさまると、家族に見張りをたのみ水汲みや食料・衣類の運び出しに立ち働いたといいます。これが、恐怖心を紛らわせるためだったというのですから驚きです。

屋根から瓦ががらがらと落ち、焼けたトタンが空を舞う有事のさなかで、自分の恐怖心すら客観視し、あたふたせず即行動を実践した19歳の少女の強さ、賢さには、ただただ頭が下がります。

本書で奈緒さんは、文さんのそんな強さ、賢さの源泉にもふれています。美しく聡明な長女と露伴待望の長男である第三子の間に生まれ、露伴に“いらざる子”と言われたという文さん。奈緒さんはその生涯に思いを馳せ、「今のことばで表現するなら、こじらせ系とでも言ったところかもしれない。こじれるエネルギーがあったから、逆境、不遇、不満、すべてを乗り越え生き延びた」(本書より)と綴っています。

半人前の“みそっかす”だからこそのエネルギーで、どうにもならない運命を踏んで立ち、考えるより手を動かして自ら状況を打開していく。そんな精神が、幸田家には満ちています。

*  *  *

5回にわたり、ことばの側面から幸田家の日常をのぞかせていただきました。

ことばは心を映す鏡です。普段づかいのことばにこそ、その家庭ならではの暮らし方があらわれています。「ことばとはなんとちっぽけな、でも、与えられた幸せを胸に使い続けるものだと思う」(本書より)――本書を手に、皆さんも身近なことばを改めてみつめなおしてみてはいかがでしょうか。

【参考図書】
『幸田家のことば 知る知らぬの種をまく』
(青木奈緒・著、本体1,500円+税、小学館)
https://www.shogakukan.co.jp/books/09388502

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文/酒寄美智子

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