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じつは「ライヴ」ではなかった あの「ライヴ名盤」(その2)【ジャズを聴く技術 〜ジャズ「プロ・リスナー」への道53】

文/池上信次

じつは「ライヴ」ではなかった あの「ライヴ名盤」(その2)【ジャズを聴く技術 〜ジャズ「プロ・リスナー」への道53】今回は「続・じつはライヴではなかったライヴ盤」です。前回、ライヴ・レコーディングとはいえアルバムのための録音ですから、「記録」より「作品」であることが優先されると書きましたが、「記録」が優先されたライヴ・レコーディングもあります。メンバー、場所、内容などが「1回限り」という場合ですね。まあ、厳密にいえばジャズはすべての演奏が「1回限り」であり再現が不能ですが、そういう意味ではなく、その日そのときの「記録」であることに価値・意味があるという場合です。

1979年3月2日から4日の3日間、キューバのハヴァナで「ハヴァナ・ジャム」という音楽フェスが開催されました。出演は、アメリカからビリー・ジョエル、ステファン・スティルス、リタ・クーリッジらのポップス・ミュージシャン、そしてデクスター・ゴードン、スタン・ゲッツらによるCBSオールスターズ、ウェザー・リポートなどのジャズのグループ。キューバからは、イラケレやファニア・オールスターズら、サルサのグループが出演しました。会場は4800人収容のカール・マルクス・シアター、主催はアメリカのコロンビア・レコードとキューバのファニア・レコードで、アメリカ国務省とキューバ文化庁がバックアップしていました。つまりこれは国交のないアメリカとキューバとの文化交流のための、まさに「1回限り」の歴史的イヴェントだったのです。「ハヴァナで行なわれた」ことに意味があるわけですね。レコード会社が主催ですから、ステージは当然ライヴ・レコーディングされており、音源はジャズ・グループを中心にライヴ盤『ハヴァナジャム』と『ハヴァナジャム 2』(コロンビア)として発表されました。

ジャズ・ファン向けの目玉は、ジョン・マクラフリン(ギター)、ジャコ・パストリアス(ベース)、トニー・ウィリアムス(ドラムス)による、「トリオ・オブ・ドゥーム(Trio Of Doom)」という名の臨時編成バンドでした。出演は3月3日の夜の1ステージだけ。もちろんライヴ盤にも収録されました(『ハヴァナ〜』と『2』で全3曲)。人気絶頂、実力充実の3人による「1回限り」の演奏ですから、レコードは当時たいへん注目されたのはもちろんですが、その後も一度もこのメンバーによる演奏・録音は行なわれず、さらにジャコは87年に亡くなったので再結成もかなわず、トニーも97年に他界し、その価値はますます高いものとなっていきました。

そして、ハヴァナのライヴから28年後の2007年、突然CD『トリオ・オブ・ドゥーム』(ソニー)がリリースされました。そのCD帯にはなんと「……未発表音源満載のフル・アルバムついに降臨!」と書かれているではありませんか。「フル・アルバムが眠っていたのか?!」。さっそく手に入れ、開けてびっくり(本稿最初からネタバレですが)、なんと「ハバナのライヴ」は嘘でした、と書かれているではありませんか。


(1)『トリオ・オブ・ドゥーム』(ソニー)

演奏:ジョン・マクラフリン(ギター)、ジャコ・パストリアス(ベース)、トニー・ウィリアムス(ドラムス)
録音:1979年3月3日(ハヴァナ)、3月8日(ニューヨーク)
———-

CDに記されたマクラフリンのコメントとビル・ミルコウスキー(ジャコの評伝筆者)による解説をまとめるとこうなります。ステージでの演奏はジャコのせいで不調に終わり、マクラフリンはレコード収録を拒否。しかし、ライヴ盤のリリースは決まっていたので、帰国後、急遽ニューヨークのスタジオで同じ曲を録音し、当日の拍手と歓声をかぶせてライヴらしく仕立て上げた、ということでした。そして、この「フル・アルバム」は、隠されていた「本当のライヴ」と、「ライヴの粉飾部分を取り去った」スタジオ演奏の両方を収録しています。「本当のライヴ」の未発表1曲も収録。さらに興味深いのが、もうこの際ということなのでしょう、スタジオの「失敗あるいはリハーサル・テイク」まで入っているのです。これまで「ライヴ」だと信じてきたのに……。というモヤモヤはあるにせよ、聴きどころが満載なのでした。

いちばんの興味は、ボツになった「本当のライヴ」ですよね。聴いてみるとそれは、どうしてこれがボツに?という素晴らしい演奏なのです。むしろ「ライヴ感」があって(当然ですね)こちらのほうがいいと思わせるところもあります。スタジオでの録音し直しは、ステージでのジャコの不調(のちに顕在化する「奇行」もにおわせている)を理由にしていますが、スタジオの「失敗/リハ・テイク」の存在も考えると、もしかするとこれは、レコードには最初からスタジオ演奏を入れることを想定していたのではないかと思うのです(アメリカからは誰もステージは観に行けないので、変えてもわからないですし)。ステージはリハーサルも兼ね、かつアリバイ作りであったと。この3巨匠がキューバ遠征から帰国直後にスタジオに揃った(ステージは3月3日、スタジオは3月8日)というのも、メンバーとスタジオのスケジュール的に考えても不自然ですし。だから、こんなに素晴らしい「ライヴ」演奏にもかかわらず、当時はステージ録音のプレイバックは聴かずにいて、それをのちに聴いたら「ステージのほうもよかった」ということでリリースに至ったのではないかと。

いずれにせよこの「フル・アルバム」は、すごい演奏がもう1ステージ分聴け、こんな推理(妄想?)もさせてくれる素晴らしい内容なので、もう隠していたことなんてどうでもよくなってしまうのでした。ついでに、冷静に考えると『ハヴァナ・ジャム』『同2』に収録されていた「拍手入りスタジオ・ヴァージョン」はここには収録されていないので、こちらも手放せないな、とマニア(私)は思うのでありました。

最後に思いつきましたが、『ハヴァナ・ジャム』収録のほかのミュージシャンの演奏はどうなのでしょうか。もしかして……?

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。先般、電子書籍『プレイリスト・ウィズ・ライナーノーツ001/マイルス・デイヴィス絶対名曲20 』(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz/)を上梓した。編集者としては、『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『小川隆夫著/伝説のライヴ・イン・ジャパン』、『村井康司著/あなたの聴き方を変えるジャズ史』(ともにシンコーミュージックエンタテイメント)などを手がける。

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