別冊付録 手塚治虫『地底国の怪人』

(C)手塚プロダクション

『サライ』5月号は特集「手塚治虫と漫画の青春」に合わせて、手塚治虫の初期名作『地底国の怪人』が別冊付録として付く。手塚プロダクションに所蔵された貴重な原本から、巻末の広告まで再現した2色カラー160ページの、ファン垂涎の復刻本だ。

発売を機に、別冊付録『地底国の怪人』の見どころと復刻にいたる舞台裏をご紹介しよう。

* * *

漫画の神様・手塚治虫をして「いわゆるストーリー漫画の第一作」と言わしめた、記念碑的作品作がこの『地底国の怪人』だ。

単行本が刊行された昭和23年、手塚青年は19歳で、大阪大学医学専門部の学生だった。前年には赤本漫画業界で空前のヒットとなる『新宝島』を発表し、新進気鋭の若手漫画家として注目株となっていた手塚だが、いまだ職業漫画家としての前途を決めかねていた時期でもある。一時は大人漫画の世界を目指して新聞を発表の舞台に選んだ。当時、いまでは信じられないほど児童漫画家の社会的地位が低かったことも、手塚を逡巡させた一因だろう。

だが、自ら“戦後ストーリー漫画の原点”と胸を張る『地底国の怪人』で手塚は、幼少期から戦時中の中学生時代にかけて吸収したものを、惜しむことなく注ぎ込んだ。映画、舞台、音楽、文学、美術、海外の大人漫画、といったありとあらゆる芸術文化から摂取し蓄えた物語のエッセンスが、この一作にすべてつぎ込まれている。

『地底国の怪人』を描いた、作家的な達成感が、のちの巨匠への長大な歩みのステップボードとなるのである。

物語は、人類の発展のために地下トンネルの貫通を目指す少年科学者と、そこに立ちはだかる地底国人との抗争を軸に展開する。科学の進歩を誇示するかのように、人類によって人間に改良されたウサギの「耳男」(みみお)が、準主人公として躍動し、壮大な冒険譚に複雑な陰影を与える。

「人間の仲間になりたい」と願いつつ、その願いを受け入れられず、人類を救うために耳男が悲壮な最期を遂げる。そのクライマックスは「全国の漫画少年たちが涙するほどの感銘を受けた」といわれる名シーンだ。

『ドラえもん』の作者、藤子・F・不二雄も、『地底国の怪人』をはじめとする手塚治虫の初期作品にふれたことで本格的に漫画家を目指すことになったひとりである。『サライ』5月号の特集には、平成元年の手塚死去後に雑誌の追悼特集に寄せた藤子・F・不二雄の回想漫画を再録しているで、ぜひともご覧いただきたい。

読者の子どもたちを感情移入させる卓越したキャクター造形と、文明の衝突という壮大な悲劇的スペクタクル性。

『地底国の怪人』で手塚は、科学の進歩と人間中心史観(ヒューマニズム)という当時、当然のこととされていた考え方を相対化する物語を構築した。藤子・F・不二雄だけでなく、当時の多くの漫画少年がこの作品に触発されて、「これからは漫画であらゆることが表現することができる!」と、彼らの才能を開眼させていくことになる。『地底国の怪人』には、手塚の初期作品群のなかでも格別の燦めきが刻み込まれているのだ。

(C)手塚プロダクション

(C)手塚プロダクション

本作が今回、別冊付録に選ばれたのは、次のような理由からである。

近年も復刻ブームが続く手塚初期作品の中でも久しく復刻されていないタイトルであったこと。

大胆なコマ割りや見開きの展開のすばらしさ。

全編にわたる鮮やかな2色カラー印刷で、当時の少年読者の興奮を追体験できること。

そしてもうひとつ、なによりも、リアルタイムで手塚作品を読み込んでトキワ荘時代を経て国民的漫画家になった藤子・F・不二雄が、『地底国の怪人』との出会いの衝撃を語った解説文(名文!)の存在。(こちらも『サライ』5月号の漫画特集に掲載しているので、ぜひともご一読いただきたい)。

今年、伝説的な「トキワ荘」が「豊島区トキワ荘マンガミュージアム」として復元されるのを機に、戦後漫画の出発点『地底国の怪人』の熱き息吹を体感してみてはいかがだろうか。

文/山田英生

『サライ』5月号の特集は「手塚治虫と漫画の青春」。トキワ荘に集った“漫画の神様”と俊才たちの熱き日々を紐解いていきます。さらに、手塚治虫が19歳で描いたストーリー漫画の原点『地底国の怪人』が全160ページの特別付録で復刻します。

 

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