文/鈴木拓也
下は10代から上は80代まで、これまで2万人以上の姿勢を改善してきた柔道整復師の小林篤史さんは、悪い姿勢には背骨の曲がり方によって、3つのステージがあると説明する。
まず、ステージIは「首曲がり期」。生活習慣で骨盤が前傾または後傾すると、「顔だけが前に飛び出す」などした、一般的なねこ背の状態。
これが悪化してステージIIの「背曲がり期」になると、はっきりと背が丸まって見え、実際に背骨が曲がっている状態になる。
さらに進んでステージIIIの「腰曲がり期」では、腰から90度くらいに曲がり、杖などの補助具がないと歩行も難しい、高齢者にしばしば見られる状態になる。
ステージIやIIはまだしも、IIIともなると改善は難しいのではと思ってしまうが、小林さんは、そこから改善し、ふつうに歩けるようにすることも可能だと、著書の『一生曲がらない背骨をつくる 姿勢の教科書』(マキノ出版)で説く。
本書では、各ステージに応じたセルフケアや生活習慣のアドバイスが網羅されており、ステージIII向けのメソッドもある。今回は、その幾つかを紹介しよう。
■ステージIII「腰曲がり期」の筋トレ
小林さんは、このステージの基本的な対策として「自分に可能な筋トレを行うこと」を挙げる。筋肉の衰えが、悪姿勢の固定化に直結するからだ。
「筋トレ」とは言っても、重いダンベルなどを持って上げ下げするようなハードなものではない。むしろ、(健常者の視点では)「これが筋トレ?」と思える運動だが、効果は大きいという。その1つが、「姿勢まっすぐウォーキング」だ。
・やり方
1. 壁の前に立って、壁に両手をつく
2. 壁についた手を上へずらしながら、壁に近づいていく。
3. こうすると自然に上体が起きるので、その姿勢をキープして1分間歩く。
歩くのは、室内でも屋外でもかまわない。時間にしてほんの1分。小林さんは、「歩くことに意識が向かうと、起こした上体がキープしやすいはずです」とアドバイスする。
話は前後してしまうが、「姿勢まっすぐウォーキング」をする前に、「骨盤を立てるストレッチ」と「骨盤タオルワーク」を行う。これらはステージI、II向けのセルフケアでもあり、前者は立ち姿勢で左足の甲を左手で持って後ろに引き上げ(太ももの裏につくところまで)、10秒キープして、反対の足も同様に行うというもの(骨盤前傾の場合)。後者は、硬く丸めたバスタオルを仙骨に当ててから仰向けになり、その状態を1分間キープするというもの(詳細については本書の図を参照)。
■ステージIII「腰曲がり期」の栄養状態改善
基本的な対策としてもう1つ重要なのが「栄養状態を改善すること」だ。
「食事に気を遣っているつもりでも、実際には栄養が足りず、知らず知らずのうちに、低栄養状態になっていることがあります」と、小林さんは指摘する。
特に一人暮らしだと、惣菜パン、丼もの、麺類などで手早く済ませがちになり、糖質ばかり摂る食生活になりやすい。そうではなく、本当に摂るべきなのは、タンパク質、ビタミン、ミネラルだという。
目安として、例えば、1食あたり薄切り肉2~3枚、魚の切り身1切れ、卵1個、豆腐2分の1のいずれかを食べるといいでしょう。筋肉と骨によいという意味では、鉄分やビタミンB群を多く含んだ赤身の肉がお勧めです。(本書154pより)
■ステージIII「腰曲がり期」の睡眠
これはなにもステージIIIの人に限ったことではないが、「いかに熟眠できるか」が、改善を促すためにも、悪い姿勢にリバウンドさせないためにも重要だという。
ふつう、熟眠しているときは、筋肉の緊張はほぐれているもの。しかし、姿勢に問題を抱えている人は、筋肉が緊張し、こわばっているため、熟眠しにくい。これでは、翌朝起きたときも疲れは取れず、筋肉はこわばったままになる。
対策として、「骨盤タオルワーク」を就寝前に行う。枕は、柔らかすぎるもの、低反発のものは、寝返りがしづらくなるのでNG。枕の高さについても、あお向け時に顔の面が床面と平行になるよう調節する。
パジャマは布団との摩擦が少なく、寝返りがしやすいという意味で、シルクがおすすめだという。同じ理由で、シーツも「ツルツルで摩擦がない」ものがベターだとも。
睡眠の質が上がれば、姿勢改善にもつながるそうなので、留意しておくとよいだろう。
* * *
小林さんは、ステージIIIからの回復はもとより、予防策となる一生曲がらない背骨づくりも可能だという。それには、本書にあるセルフケアをしながら、より好ましい生活習慣へと切り替えてゆくことが大事。「背すじが伸びれば、見える世界が違ってきます」という言葉を励みに、トライしてみるとよいだろう。
【今日の健康に良い1冊】
『一生曲がらない背骨をつくる 姿勢の教科書』
https://www.makino-g.jp/book/b456587.html
(小林篤史著、本体1,300円+税、マキノ出版)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。