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ブロードウェイ・ミュージカルの名曲をジャズマンが演奏する理由【ジャズを聴く技術 〜ジャズ「プロ・リスナー」への道11】

文/池上信次

スタンダードの「供給源」|ブロードウェイ・ミュージカルとグレイト・アメリカン・ソングブック【ジャズを聴く技術 〜ジャズ「プロ・リスナー」への道11】

第11回スタンダードの「供給源」|ブロードウェイ・ミュージカルとグレイト・アメリカン・ソングブック

今回は「スタンダード曲」の「元ネタ」について。前回までに紹介したスタンダードの元ネタは、ソウルのヒット曲(「イズント・シー・ラヴリー」)やアニソン(「いつか王子様が」)、シャンソンのヒット曲(「枯葉」)などでしたが、ジャズ・スタンダード曲の発祥でもっとも多いのは、ニューヨークのブロードウェイ・ミュージカルでしょう(その次は映画)。

1900年代初頭からニューヨークのブロードウェイは劇場街として発展してきました。20年代に隆盛を迎え、現在までアメリカにおいてミュージカルは常にヒット曲の大きな「製造元」のひとつです。ジャズの世界に限ってみると、50年代半ばのロックンロールの登場(とそれに伴うジャズ界の変化)までは、ブロードウェイ・ミュージカルはスタンダード曲の最大の「供給源」だったといえます。ミュージカルがヒットするとその曲が注目され、多くのカヴァー・ヴァージョンが演奏されたりレコードが作られたりし、さらにそれが広まっていくというのが「スタンダード化」への道のりです(第7回で紹介した「オール・ザ・シングス・ユー・アー」のようにヒット曲ではないものもありますが、これは例外といえるでしょう)。もちろん、ジャズの中心地がブロードウェイの同じ界隈だったことも、大きな理由のひとつですね。

ミュージカル曲がスタンダード化する理由

さて、名曲は数々あれど、スタンダード化するのはなぜミュージカル曲が多いのか。そこには理由があります。もともとミュージカルの楽曲は、歌手や演奏者のためではなく、「ミュージカル作品」のために書かれています。したがってヒットしても特定の歌手や演奏者のイメージが付いていないのですね。あったとしても、それ以上に「作品」のイメージが大きく、これが一般のポップス・ヒット曲とは大きく異なるところです。ここがジャズマンにとっては好都合。「色」が付いていないほうが、歌でもインストでも存分に個性を発揮できるということなのです。言い換えれば、ミュージカル曲はもともと「汎用型」なのですね。また、演奏者のキャラクターに寄りかかっていないので、純粋に楽曲そのもので勝負している。つまりヒットするということは、まさに「名曲」であることの証明といえるでしょう。

では、ミュージカル発祥のジャズ・スタンダードにはどんな曲があるかというと……

「ふたりでお茶を」「朝日のようにさわやかに」「ラヴ・フォー・セール」「バット・ノット・フォー・ミー」「エンブレイサブル・ユー」「アイ・ガット・リズム」「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」「アローン・トゥゲザー」「エイプリル・イン・パリ」「夜も昼も」「サマータイム」「ビギン・ザ・ビギン」「マイ・ロマンス」「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」「わが恋はここに」……と、思いつくままに15曲挙げてみましたが、ジャズ・ファンでなくとも、きっといくつかはご存じではないでしょうか。ここに挙げた楽曲はすべてブロードウェイ・ミュージカルの曲で、しかも1920〜30年代に発表されたものです。そしていまだにジャズでは演奏されつづけており、まさにジャズ・スタンダード中のスタンダードといえるものです。

これらを作っていたのは職業作家たちです。作曲家ではジョージ・ガーシュウィン、ヴィクター・ヤング、ヴァーノン・デューク、ジェローム・カーン、リチャード・ロジャース、シグムンド・ロンバーグ、作詞家ではアイラ・ガーシュウィン、オスカー・ハマースタイン2世、ネッド・ワシントン、ロレンツ・ハートらがよく知られるところです。多くは作詞・作曲は分業ですが、2004年に伝記映画『五線譜のラブレター』が制作されるほどのブロードウェイの象徴的存在であるコール・ポーターは、作詞も作曲もこなす才人でした。

ミュージカルの名曲をジャズマンたちが取り上げたのは、「ヒット曲だから」という理由はもちろんですが、ヒットするだけある優れた歌詞や美しいメロディに加えて、たとえばガーシュウィンは黒人音楽=ジャズのサウンドを取り入れていたり、コール・ポーターは大胆な転調を特徴としていたりと、ジャズマンが好むタイプ、つまりさまざまに演奏ができる可能性をもつ曲が多かったということも理由のひとつでしょう。

これら(ジャズに限らず)スタンダードとなった、おもに1920年代から50年代にかけてのブロードウェイ・ミュージカルやミュージカル映画の名曲群は、現在では「グレイト・アメリカン・ソングブック」と呼ばれています。これらの楽曲は、ジャズのみならずアメリカの音楽文化全般にいまなおその名のとおり大きな影響を与え続けているのです。

「グレイト・アメリカン・ソングブック」を知るお勧めアルバム

ロッド・スチュワート『ザ・グレイト・アメリカン・ソングブック vol.1〜5』(J レコーズ)

発表:2002〜2010年
演奏:ロッド・スチワート(ヴォーカル)ほか
ロッド・スチュワートは「ロック・シンガー」というのが多くの人の認識だと思いますが、CDセールスをみると「ジャズ・シンガー」といったほうが近年の実像に近いかもしれません。ロッドは2002年からジャズ・スタンダード集『ザ・グレイト・アメリカン・ソング・ブック』シリーズをリリース。10年には『同vol.5』でシリーズをひとまず完結しましたが、シリーズ累計売り上げはなんと2000万枚超というのですから、ロッドはおそらく21世紀でもっとも「ジャズ」アルバムが売れたヴォーカリストといえるでしょう。専業ジャズ・ヴォーカリストのような「凝り過ぎ」たひねりはなく、メロディは素直に、しかし声で勝負するのがロッド流。シリーズで歌ったスタンダードは全80曲。まさにタイトルどおりの名曲カタログです。たくさんのスタンダード曲を知りたいという方にとくにお勧めします。

* * *
次回からは、ジャズ・スタンダード名曲=「グレイト・アメリカン・ソングブック」の名演、聴きどころを紹介していきます。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。近年携わった雑誌・書籍は、『後藤雅洋監修/隔週刊CDつきマガジン「ジャズ100年」シリーズ』(小学館)、『村井康司著/あなたの聴き方を変えるジャズ史』、『小川隆夫著/ジャズ超名盤研究2』(ともにシンコーミュージックエンタテイメント)、『チャーリー・パーカー〜モダン・ジャズの創造主』(河出書房新社ムック)など。

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