最速の自動車、そして最速のオートバイを購入!
敏郎さんが奥様と結婚し、2人の娘さんが学校に通い始めた頃。日産から驚異的な性能を誇る8代目『スカイラインGT-R』、通称“R32”が登場します。国内で人気の高いレース、『全日本ツーリングカー選手権』で上位を席巻。さほど自動車に興味のない人にまで、高性能車の代表格として広く知れわたりました。
かねてから「一度はGT-Rを所有したい」と考えていた敏郎さんは、程度のいい9代目『スカイラインGT-R』、通称“R33”と出会い、購入に踏み切ります。また、オートバイでも「世界最速」と謳う高性能オートバイ、カワサキの『GPZ900R』、通称“ニンジャ”を購入します。
誤解して欲しくないのは、敏郎さんは普通の会社員ということ。決して高収入を得ていたわけではありません。日本で一番、ローンを組む率が低いといわれる、名古屋で生まれ育った敏郎さん。GT-Rやニンジャを購入する際にもローンを組むことなく、倹約してお金を貯めてから購入しています。
「あの500円玉の貯金缶って、いっぱいに貯まるといくらになるか知ってますか? 銀行で数えてもらったら、ちょうど30万円でした。ニンジャはこの500円玉貯金と、それまでの貯えを足して買いました。
GT-Rもニンジャも、もちろん嫁の許可を得て買いましたよ。でも、いざ納車されると「本当に買ったの!?」って驚かれましたね。どうも冗談で言ってるって思われていたみたいです」
「GT-Rは性能も存在感もスゴくて、高速道路に乗ると、前を走る自動車がみんな道を空けてくれました。急いでいるわけでも、ましてあおっているわけでもなかったんですけどね。
私はもちろん満足していたのですが、娘たちからは『乗り降りが面倒』とか『後部座席が狭い』って、不評でした。『快適さを求めた自動車じゃないんだ』って説明しても、やっぱり分かってもらえませんでしたね」
娘さんからの評判は今ひとつだったものの、GT-Rに惚れ込んだ敏郎さん。ですが購入から5年を経て、理不尽な別れが訪れます。
「朝、駐車場に向かうと、GT-Rがなかったんです。はじめは嫁が乗っているのかなと思って連絡したら『乗っていない』との返事を受け、そこではじめて盗難だって自覚しました。ホント、足からスーッって力が抜けて、目の前が真っ暗になりましたよ」
急ぎ、警察に届けたものの、見つかったという一報はなし。結果的にGT-Rは見つかりませんでした……。
【後編】へ続く
取材・文/糸井賢一(いといけんいち)
ゲーム雑誌の編集者からライターに転向し、自動車やゴルフ、自然科学等、多岐に渡るジャンルで活動する。またティーン向けノベルや児童書の執筆も手がける。