takesi 2013-4-8 025

文/印南敦史

『テレビじゃ言えない』(ビートたけし著、小学館新書)の冒頭において、ビートたけしは、現在のテレビ業界に対してフラストレーションがあることを認めている。

「最近、ちょっとフラストレーションがたまってることがある。 ご存知の通り、オイラの主戦場はテレビだ。40年近くこの業界でメシを食ってきたし、愛着は当然ある。それなりに実績も作ってきたし、新しいものも多少は生み出してきたつもりだ。だけど、そんなオイラでも、このところ昔みたいに自由が利かなくなってる。テレビの自主規制が年々ひどくなっていて、かつてのような言いたい放題、やりたい放題がドンドンできなくなってきてるんだ。」(本書「はじめに」より引用)

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いうまでもなく、たけしといえば「テレビの顔」である。テレビ業界で残してきた功績の大きさには計り知れないものがあるし、そのような活動を通じ、常に時代をリードしてきた。

だから、多くの人の目には「なんでも好きなことを自由にできそうな人」として映るだろう。しかし現実的にはそんなたけしでさえ(だからこそ、かもしれない)、昔のように自由が利かなくなっていることを痛感するというのだ。

つまりは、テレビの自主規制が年々強化され、たけしの持ち味である「いいたい放題」「やりたい放題」ができなくなってきているということ。政治的な内容なもちろん、下ネタなども「あれはダメ」「これもダメ」と規制されてしまうというのである。

もちろんそれは、業界全体の流れである。だから、その最前線にいるたけしが危機感を抱いたとしても、まったく不思議なことではない。というよりも、彼のような人間にさえ危うさを感じさせてしまうような状況は、それ自体が危険である。

いずれにせよ、一方的に規制されている、あるいは発言をあとからカットされているにすぎないのに、「近頃、たけしはテレビで毒舌をちっとも出さない。そもそもあまりしゃべらなくなった」などといわれてしまったのでは、フラストレーションが溜まってもそれは当然だろう。

「ただし、勘違いしてもらっちゃ困るんだけど、オイラはテレビを諦めちまったわけじゃないんだ。(中略)本来、オイラのような芸人の漫才やコントなんてのは、「表現の自由」なんてもので守られるようなもんじゃない。もっと低〜い所にあるものなんだ。だからこそ「規制されてナンボ」だし、それでお客の注目が集まってくれりゃ、かえってありがたい。規制されたら、別のやり方でどう面白くイジってやろうか必死で考えるのがオイラのやり方だ」(本書「はじめに」より引用)

つまり本書も、いかにもたけしらしいそのような反骨精神から生まれたものである。「久しぶりに『放送コード無視のビートたけし』をお目にかけておこうか」という本人の言葉どおり、放送コードもなにも関係ない本書を確認してみれば、たけしの本質はなにひとつ変わっていないことがわかるだろう。

しかも第1章がスタートするや、安倍政権の「一億総活躍社会」というスローガンに対して鋭い斬り込みを入れ、「バカの拡声器」たるインターネットの危うさを指摘し、トランプ政権の可能性を疑問視し……と、つまりは多くの人が「そうそう、そうなんだよ!」と声をあげたくなるような「たけし節」が全開なのである。

テレビ業界の現状を考えると、やはり本書の内容をそのままの形で現在のテレビで流すのは難しいだろう。そこに見え隠れするのはテレビというメディアの限界かもしれないが、強調したいのはそんなことではない。

毒にも薬にもならない無味乾燥なテレビ報道に飽き飽きしている人は、そこからくるストレスが大きければ大きいほど、本書を痛快に感じるだろう。

本書は「週刊ポスト」の連載「ビートたけしの21世紀毒談」から、反響の大きかったエピソードを抜粋、加筆したもの。テレビの本来的な役割を考えると、「テレビにできないから活字にするしかない」というのは皮肉なことではある。が、多少なりともたけしのフラストレーションに共感できる部分があるのなら、ぜひ一読いただきたい。

理屈以前に、“たけし口調”で書かれた内容は、読みやすいだけでなく、文句なしに痛快だ。

【今日のオススメ本】
『テレビじゃ言えない』
(ビートたけし著、小学館新書)
https://www.shogakukan.co.jp/books/09825292

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文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。雑誌「ダ・ヴィンチ」の連載「七人のブックウォッチャー」にも参加。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)などがある。

 

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