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幻の音色!サントリーホール秘蔵の歴史的ピアノを試弾してみた

文/林田直樹(音楽ジャーナリスト)

クラシック音楽の殿堂として知られるサントリーホール(東京・赤坂)に、かつて福澤諭吉の孫が所有していた、とてつもない名器のピアノが所蔵されているのをご存知だろうか。

19世紀を代表するフランスのピアノ製造会社、エラール(Erard)が1867年にパリで製作したとされる、コンサート・グランド・ピアノである。

長さ2メートル50センチと、当時としては数少ない大型で、カエデ材の暗く濃い木目が生かされたもの。しかも抜群のコンディションで保管されている。

噂の名器を間近で拝見でき、喜ぶ筆者

ベートーヴェン、ショパンやリストが愛したピアノ・メーカーであるエラールは、19世紀ロマン派ピアノ音楽の発展に絶大な影響を与えたが、ドイツやアメリカのピアノとの競争に敗れ、市場から姿を消してしまった名門のひとつである。

最新鋭のモダンピアノの性能は確かに素晴らしい。だがこうした昔のピアノには、現代の規格化されたピアノにはない、一台一台がすべて手作りで異なる、工芸品のような魅力がある。何よりもその個性的な響きは、作曲家たちの耳にしていた音に近いのだ。

いまクラシック音楽の世界では、「古楽器」がひとつの大きな潮流となっている。作曲家が活躍していた当時の楽器の響きを再現することによって、作品に新しい光を当てようという試みである。それはピアノの世界にも根本的な変化をもたらしつつある。

19世紀前半までの“フォルテピアノ”を専門とし、その美点を伝える演奏家も次々登場している。フォンテックからモーツァルトのピアノ作品集を、1790年頃のヴァルター製モデルのフォルテピアノで録音し続けている平井千絵さんもその一人。

今回、そんなオールドピアノのスペシャリスト・平井千絵さんに、サントリーホールのエラールを特別に試弾していただいた。

フォルテピアノ奏者の平井千絵さん

その模様と素晴らしい音色は、ぜひ次の動画にてご覧いただきたい。

昔のピアノは、一台一台がすべて違うキャラクターを持っている。だから楽器との対話のできる特別なスキルを持った演奏家が求められる。平井さんも、試弾の最中、ずっとエラールのピアノとの対話を楽しんでおられた。やはり非常に大きな可能性のあるピアノとのことだった。

ところで、この名器を、なぜ福澤諭吉一族が持っていたのだろうか?

2004年に寄贈を受けたサントリーホールから詳しく教えていただいたところ、次のようなことが判った。

福澤諭吉には9人の子供(四男五女)がいたが、それぞれの個性と意志を尊重し、自由で暖かい環境のもと育っていった。そのなかで、四男の福澤大四郎(1883-1960)は慶應義塾政治科を1904年に卒業後ハーバード大学大学院に留学、ニューヨークで銀行の仕事をしながら、そこで音楽や演劇に親しむようになったという。

大四郎の息子、福澤進太郎(1912-95)は慶應幼稚舎へ通う頃から父の影響でクラシック音楽に興味をもち、チェロを習うようになる。慶應義塾法学部卒業後、1936年にパリ大学に留学し、そこでパリ国立音楽院へ留学していたギリシャ人声楽家アクリヴィ・アシマコプロス(1916-2001)と出会う(のちに結婚)。

この二人がパリの由緒ある家のサロンで出会ったのが、ナポレオン3世の時代の美学を反映した1867年エラール製の大型ピアノである。そのサロンではフランツ・リストも弾いたと伝えられている。

このエラールを購入した二人のパリのアパルトマンを、指揮者の近衛秀麿(1898-1973)も訪れ、アクリヴィの歌唱の伴奏で弾いたという。

福澤アクリヴィは終戦後、夫の進太郎とともに来日、シェーンベルク「月に憑かれしピエロ」の日本初演をおこない、武満徹や湯浅譲二らの所属していた芸術家グループ「実験工房」の演奏会にも出演するなど、日本の音楽界に大きな足跡を残すことになる。そのアクリヴィが生涯愛し、片時も手放さなかったピアノが、このエラールなのである。

アクリヴィの死後、この素晴らしいピアノをぜひ使ってほしいとのことで、その娘エミさんが2004年にサントリーホールに寄贈したことにより、現在に至っている。

パリのサロンに始まり、日本の近代史とも深くかかわってきたこのエラール・ピアノの歴史的価値は、計り知れないものがあると言っていいだろう。

*  *  *

なお、これまで演奏されることのあまりなかったこのサントリーホールのエラールだが、久しぶりにその豊かな音色を響かせるコンサートが、この秋に行われる。奏者はロシア・ピアニズムの真髄を継承する最後の巨匠、アレクセイ・リュビモフ。このまたとない機会、ぜひ足を運ばれてみてはいかがだろうか?

そして今後もこの歴史的なエラールが、すぐれた演奏家の手によって演奏され、多くの人に聴かれる機会が増えていくことが望まれる。

【アレクセイ・リュビモフ ピアノ・リサイタル】
11月2日(金)19時開演 サントリーホール・ブルーローズ
曲目 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番ホ長調op.109、ドビュッシー:前奏曲集より、ショパン:バラード全4曲
全席指定SS席:¥7,000 普通席:¥5,500
主催: M.C.S. YOUNG ARTISTS
詳細はこちら
http://www.mcsya.org/event/2018062908201695.html

文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)

特別出演・試弾/平井千絵
フォルテピアノ奏者、ピアニスト。桐朋学園大学ピアノ科卒業後、オランダ王立音楽院修士課程を首席卒業。ブルージュ国際古楽コンクール等、国内外のコンクールに多数入賞。フランス近代音楽、特に大地の作曲家・セヴラックを中心に、新しいレパートリーを拡げている。NHKらららクラシック、BSクラシック倶楽部などに出演。これまでに国内外で13枚のCDをリリース。高い評価を得ている。日本セヴラック協会会員。今後の演奏会等の情報は公式サイトにて>> https://chiehirai.com/schedule/  

取材協力/サントリーホール

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