文/矢島裕紀彦

今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。

【今日のことば】
「為政清明」
--大久保利通

西郷隆盛が「敬天愛人」を座右の銘としていたことは広く知られるところだ。これに対し、古くからの盟友でありながら後に西南戦争で敵対することになった大久保利通が、書などによくしたためていたのが「為政清明」の4文字だった。世の政(まつりごと)というものは、清廉かつ公明正大になしていかねばならないということだろう。

大久保利通は天保元年(1830)鹿児島・加治屋町の生まれ。年齢は西郷の方が3つ上だが、市内の甲突川畔に立つ生誕地の碑は、互いに目と鼻の先だ。政治的な立場の違いから袂をわかつことになっても、心の奥底では相手を思う気持ちは強かっただろう。

西南戦争での西郷の自刃から半年後の明治11年(1878)5月14日、大久保が東京・紀尾井坂で暗殺されたとき、散乱した書類包みの中には、西郷から大久保にあてた2通の手紙があったという。また、大久保は金銭には潔癖で、政権の中枢に屹立しながら私財を蓄えることなく、死後には多くの借金が残されていたという。

大久保利通の孫のひとり、大久保利謙(としあき)は高名な歴史学者であったが既に亡くなっている。私はその利謙のご子息に以前、大久保利通の「素顔」についてインタビュー取材する機会があった。利通の曾孫に当たるこの方は、もちろん利通には会ったことはない。だから、残されているさまざまな記録や伝聞などからアプローチするしかないとした上で、こんな話をしてくれた。

「大久保利通というと、皆さん、冷たい厳格なイメージを持っているようですが、家庭の内側から見ると、やさしいお爺さんという印象が強いんです。週末に家族みんなで食事するのを、非常に楽しみにしていたというような話も伝わっています。
また、遺品を実際に手にふれて整理していると、土くささがないという印象がありますね。お洒落なんです。ただし、使っていたものが特別高価ということはない。外国で求めてきた品物にしても、なんでもないものです。気に入ったから使う。そんな自然な感じなんです。外国遠征から帰国後、朝は決まってパン食で、牛乳に卵、砂糖、ブランデーを入れたものを飲んでいたようです。いいものを、どんどん取り入れていく積極性があったんですね」

今日から師走。来年1月からスタートするNHK大河ドラマは西郷隆盛を主人公とする『西郷どん』である。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

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