文・絵/牧野良幸
60年代に大人気だったコメディ・グループ、クレイジーキャッツの出演第1作がこの『ニッポン無責任時代』(1962年)である。クレイジー映画は「無責任シリーズ」「日本一シリーズ」「時代劇もの」など数多く作られたが,その中でもダントツに面白いのがこの『ニッポン無責任時代』だ。
これはひとえに脚本のアナーキーさによるものであるが、あまりの“無責任ぶり”に、東宝の上層部でさえ眉をひそめたほどで、以後のクレージー映画はまっとうな(?)喜劇映画となる。というか『ニッポン無責任時代』が奇跡的に飛び抜けていた、と言ったほうがいいかもしれない。
主演はもちろん植木等だ。植木等が演じる平均(たいらひとし)は調子のいい男。あの手この手を使って洋酒会社に入社してしまう。社長にゴマスリはお手のもの、かといって会社に対する忠誠心はない。仕事は猛烈にやるが遅刻も平気でする。「まっ、そうカタイこと、おっしゃらずに」とどこまでもC調なのだ。
もちろんこれは植木等のギャグ・ネタを投影した人物であり、挿入歌として大ヒットした「スーダラ節」「ハイそれまでョ」「やせがまん節」などが流れる(実際の本人はいたって真面目な人物であることはよく知られているが)。
「スーダラ節」はご存知「スーイ、スーイ、スーダラ、ラッタ~」と歌われる名曲。当時日本中を席巻したギャグで、小学生であった僕も思い切り歌ったものである。僕にとって60年代最大のギャグは赤塚不二夫の漫画『おそ松くん』の登場人物イヤミの「シェー」ではなく、この「スーダラ節」なのだから、もう子どもまで巻き込んでの「スーイ、スーイ、スーダラ、ラッタ〜」。楽しい時代だったなあ。
映画のなかで、その「スーダラ節」以上に強烈なのが「無責任一代男」という歌だ。「こつこつ、やるやつぁー、ごくろーさん!」。この場面に頭をガツンとやられない人はいないだろう。
まさに無責任。しかしどこか開放感がある。権威や偽善への皮肉さえうかがえる。これに若きタモリやビートたけしが影響されたようなことを、植木等の伝記本で読んだことがある。確かに日本映画史上、これだけの破壊力のある場面はそうそうないと思う。
つまるところ『ニッポン無責任時代』は喜劇を越えて、哲学的にさえ思えてしまう映画だ。または“癒し映画”としても役立つ。実をいうと、僕も落ち込んだ時にはいつも『ニッポン無責任時代』を観ることにしているのだ(そういう時は黒澤映画でも小津映画でない)。映画を観ていると、悩んでいる自分に「まっ、そうカタイこと考えずに」と植木等が元気づけてくれるのである。
ちょうど神保町シアターでは10月21日より「生誕90年記念 ニッポンを元気にした男」として植木等の代表作と、所属した渡辺プロダクションの映画を上映する。もちろんこの『ニッポン無責任時代』もプログラムに含まれる。あなたもご覧になってはいかがか。間違いなく元気がでますよ。
『ニッポン無責任時代』
■製作年:1962年
■製作・配給:東宝
■カラー/86分
■キャスト/植木等、ハナ肇、谷啓、田崎潤、由利徹、犬塚弘、石橋エータロー、桜井センリ、安田伸、重山規子ほか
■スタッフ/監督: 古澤憲吾、脚本: 田波靖男、松木ひろし 音楽: 神津善行
【生誕90年記念 ニッポンを元気にした男 植木等と渡辺プロダクションの映画】
■期間:10月21日(土)~11月24日(金)
■上映館:神保町シアター
■住所:東京都千代田区神田神保町1-23
■電話:03-5281-5132
http://www.shogakukan.co.jp/jinbocho-theater/program/nabepuro.html
※「ニッポン無責任時代」の上映は10月21日(土)~10月27日(金)です。上映時間については、上記サイトをご確認ください。
文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp