絢爛たる画面にリズミカルな群青と緑色。そのモダンなデザイン性は一度見たら忘れられない。それが尾形光琳の国宝「燕子花図屏風(かきつばたずびょうぶ)」(六曲一双、根津美術館蔵)だ。
その大胆な意匠には、京都の高級呉服商・雁金屋(かりがねや)に生まれた光琳の斬新なアイデアが盛り込まれている。
とくに特筆すべきは、その構図のもつリズム感だ。右隻は根元から花弁までしっかり見せる形で、カキツバタの花の群れがジグザグ状に繰り返し描かれる。左隻はカキツバタの根元をあまり見せないまま、低く斜めにこれまたジグサグ状に描かれる。
右隻は遠景、左隻は近景。この大胆な構図が大きな躍動感と遠近感を生むとともに、その間に広がる金色の広大な空間を「水面」に見せる効果をもたらしているのだ。
しかも繰り返されるカキツバタの花群表現には、光琳ならではのアイデアが光っている。下の図版は『週刊ニッポンの国宝100』3号「燕子花図屏風・金印」(小学館)からのものだが、そこには現代でいう「コピペ」手法が見られるのである。
右隻の右から第1、2扇の花群と、第4、5扇の花群はじつは同じ絵柄なのである。 また、左隻の第1、2扇の花群と、第2、3扇の花群とも同じ絵柄だ。
これらは、呉服商に生まれた光琳ならではの、型紙を使った技法なのだ。しかしそれは、よく見ないとわからない。当時もどれくらいの人が気がついただろうか。
贅を尽くした色使いも大胆きわまりない。使われている色はたった3色だけ。箔の金色と、花の群青色と、葉の緑色。しかもその材はとても高価なものだ。
使われた金箔は左右合わせて1000枚超。しかも箔を継ぎ重ねた線が垂直に揃っている。これは揺れる灯火を受けて輝く金の表情を、よりドラマチックに見せる工夫だという。ここでも「さすが呉服商の倅!」と合いの手を入れたくなる。
さらに花と葉には高価な鉱物を砕いて作られた岩絵具が使われている。群青は非常に産出量の少ない藍銅鉱(らんどうこう・アズライト)、葉に使われた緑色は孔雀石(くじゃくいし・マラカイト)。砕いた細かさで色の濃淡が生まれるが、光琳な燕子花の花ひとつひとつに微妙なグラデーションをつけ、花の豊潤な表情を描き出している。
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この「燕子花図屏風」は、大正時代初頭までは京都の西本願寺が所蔵していたが、その後、鉄道王の根津嘉一郎に所有が移り、今は東京の根津美術館に所蔵され、毎年4月から5月にかけてのカキツバタのシーズンに公開されている。
それがこの10月3日から京都国立博物館で開催される「国宝」展に出展される。実に100年ぶりの、京都への里帰りとなる。
【開館120周年記念特別展覧会 国宝】
■場所:京都国立博物館(京都・東山)
■開催期間:10月3日(火)~ 11月26日(日)
■開館時間:9時30分~17時(入館は閉館の30分前まで。ただし金曜・土曜は21:00まで開館)
■休館日:月曜(ただし10月9日(月)は開館、10日(火)休館)
■料金:一般 1500円
■問い合わせ先:075-525-2473(テレホンサービス)
【週刊『ニッポンの国宝100』特設サイト】
http://www.shogakukan.co.jp/pr/kokuhou100/
取材・文/まなナビ編集室
※この記事は小学館が運営している大学公開講座の情報検索サイト「まなナビ」からの転載記事です。
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