「人間なんて弱いものなんだね」(永井龍男)【漱石と明治人のことば232】

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今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。

【今日のことば】
「人間なんて弱いものなんだね。自分のつごうのいい方に、考えを持っていきたくなるんだろう」
--永井龍男

永井龍男は明治37年(1904)東京に生まれた。

応募した懸賞小説で選者をつとめていた菊池寛に認められ、横光利一らの推薦もあって文藝春秋に入社。『オール讀物』や『文藝春秋』の編集長もつとめた。

戦後昭和21年(1946)の同社の解散とともに、文筆一本の暮らしに入る。短篇小説の名手といわれた。

掲出のことばは、小説『私の眼』の中に、登場人物の台詞として書かれたもの。我田引水ということわざもある如く、つい自分中心に考えてしまうのが人間なのだろう。

文芸評論家の古谷綱武は、このことばにふれて、次のような趣旨のことを言っていた。ただ他人を非難するときだけにこういうことばを使う人と、自分自身を振り返って自己反省をこめてこういうことばを使う人とは、自ずと異なる。後者は、他人に対しても寛容の目を持つようになるのではないか。

さて、永井龍男は酒好きだった。会社を辞めて物書きとなってからは、鎌倉の自宅が仕事場だから滅多に外出はしない。夕食時間を6時45分と定め、毎晩の晩酌を楽しみにしていた。ふたりの娘にも、この夕食時間を厳守させた。

それだけではない。娘たちにこんなふうに言い聞かせていた。

「自分の好きな酒は、お前たちも絶対に好きでなくてはならない。日本酒を冷やで飲むなど、酒呑みの邪道だ。酒の飲めない人間は信用するな。」

そしてさらに、訪ねてきた編集者にウイスキーをたっぷり注いだ紅茶を出す姿を見て、「好き嫌いもあるから」とたしなめる妻に対しては、「かまわん」と言下にはねつけたという。

ふうむ。ことお酒に関しては、永井龍男も、かなり自分の都合のいい方に考えをもっていっている気がしますが、いかがでしょうか。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

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