取材・文/池田充枝
桃山時代、千利休により侘び茶が確立すると、中国から渡ってきた「唐物」を万能とするそれまでの茶の湯の価値観は大きく変わりました。天正15年(1587)頃になると茶会記には唐物はほとんど見られなくなり、代わって朝鮮半島由来の「高麗茶碗」と国産の「和物」が主要な道具となっていきました。
つづく江戸時代初期には、楽茶碗のようにそれまでの侘び茶のうつわ作りが行われる一方で、野々村仁清の華麗な色絵や、尾形乾山の大胆な図様、あるいは賛文や自身の銘を記すといった新しい感覚・視点によるうつわが作られ始めました。京都や瀬戸・美濃以外の、唐津や萩ほか全国各地で茶の湯のうつわが作られるようになり、和物以外にも中国産をはじめ、朝鮮半島産、東南アジア産も好まれ、かつての唐物が再評価されます。
さらに江戸時代中期から後期にかけては、文人文化や中国趣味の隆盛を背景に煎茶の風習も広がり、そこにも趣向を凝らした新たな雰囲気のうつわが用いられるようになりました。そして茶の湯は武家のみならず、公家、豪商、さらには町衆にまで幅広い層に浸透し、うつわも多様になっていきました。
そんな、江戸時代に流行した茶の湯の美意識を知ることのできる展覧会「茶の湯のうつわ-和漢の世界」が、東京・丸の内の出光美術館で開かれています(~2017年6月4日まで)。
本展は、江戸時代に流行した茶の湯のうつわを中心に、「一楽二萩三唐津」「京焼」「愛でられる漢のうつわ」「懐石、宴のうつわ」「煎茶の世界」の5つの章で構成されています。さらに出雲の松平家の茶の湯に関する道具帳である『雲州蔵帳』とその世界観についても特集展示として取り上げます。
本展の見どころを、出光美術館の学芸員、徳留大輔さんにうかがいました。
「本展ではとくに“一楽二萩三唐津”にスポットを当てました。侘び茶の伝統を継承・革新してきた『楽焼』、高麗茶碗や織部スタイルなどを取り入れながら独自の様式を作り公家や大名たちを魅了してきた『萩焼』と『唐津焼』です。茶の湯の世界で上位3つに格付けされてきたこれら和物茶碗の名作をまとめてご覧いただける貴重な機会となります。
また江戸時代後期の大名茶人で、出雲松江藩の七代藩主・松平不昧(ふまい)が蒐集・所蔵していた茶道具の蔵帳『雲州蔵帳』の13年ぶりの公開にもご注目ください。当館蔵の『雲州蔵帳』は、オリジナルの6冊分に加え、昭和13年に松平直亮氏が帝室博物館(現・東京国立博物館)に茶道具名品14点を献納後に再編集した目録も添っており、非常に貴重な史料です。本展では『雲州蔵帳』記載の館蔵品や関連作品もあわせて展示し、大名所蔵の茶道具・宝物の一端をご紹介します。
この展覧会を通して、茶の湯のイロハと多彩な表情を感じ取っていただけたら幸いです」
風雅な“江戸の茶の湯の世界”にひたりに、ぜひ足をお運びください。
【今日の展覧会】
『茶の湯のうつわ-和漢の世界』
■会期:開催中~6月4日(日)
■会場:出光美術館
■住所:東京都千代田区丸の内3-1-1帝劇ビル9階
■電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
■公式サイト:http://idemitsu-museum.or.jp/
■開館時間:10時から17時まで、金曜日は19時まで(入館は閉館30分前まで)
■休館日:月曜日
取材・文/池田充枝