笑顔と涙の越冬交代!南極料理人の本格始動と南極ロールキャベツ【南極観測隊シェフ青堀力の南極紀行4】

文/青堀力(料理人、南極観測隊シェフ)

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2月1日、越冬交代式が終わるとついに昭和基地主要部での生活が始まった。やっと料理ができる! ただ、食材は一年分が山積みとなっており、どこに何があるかは全く把握できていない。当分は目についた食材を使っていき、少しずつ片づけていくしかない。

久しぶりの厨房。9年ぶりの昭和基地の厨房には新しい機器も増えていた。なんといってもスチームコンベクションオーブンが導入されていたのが一番うれしい。蒸気の出るタイプのオーブンで、素材にしっとり火が入り熱伝導もいい為、調理時間が大幅に節約できる。

昭和基地の中心部は、隊長室・食堂・通信室・医務室などが入っている管理棟、発電機がある発電棟、隊員の各個室がある居住棟、食料や各部門の倉庫のある倉庫棟に分かれていて、通路でつながっている。冷凍庫は倉庫棟に一つ、発電棟に二つある。冷蔵庫は倉庫棟に一つ。常温品は管理棟の1階に保管してある。

空気の乾燥している南極ではちょっとしたボヤも大きな火災につながることが多い。一つの建物が燃えても他の建物で生きていけるよう、分散して食料を保存しているのだ。上記以外にも予備食としてかなり離れた場所に冷凍品・常温品が別々の建物に保存してある。

■とっておきの料理で送りだそう!笑顔と涙の送別会

2月6日、成田を出発してから2か月あまり、遠い道のりを共に旅して南極に着き、数々の夏作業を共に乗り越え、同じ釜の飯を食った58次夏隊の送別会が行われた。夏隊は次の日から砕氷船「しらせ」へと順次戻り、15日には「しらせ」も昭和基地を離岸し帰途へと着く。つまり夏隊にとってはこの送別会で出される食事が、南極の最後の味となるのだ。自然と力が入る。

相方の内村シェフ(通称うっちー)と私は、どちらも洋食畑。最後は得意な料理で送り出そうと決めていた。

トリュフ、フォアグラ、キャビアの“世界三大珍味”に加え、私がほれ込んだ信州のサフォーク(黒毛和羊)の香草パン粉焼、和牛のローストビーフ、そしてうっちー得意のカスレ(ソーセージ、鴨のコンフィと白いんげん豆の煮込み)等々。

夏作業で一様に黒く焦げたような肌をしたみんなの顔が、笑顔で溢れた。その日は遅くまで共に思い出を語り合った。

本格始動した南極シェフ2人組。筆者(左)とうっちー(右)。

サフォークの香草パン粉焼

ローストビーフをカットする

皆に盛り付けを教える筆者

世界三大珍味を使ったピンチョス

2月15日、ついに「しらせ」が帰る日がやってきた。Aヘリポートに最後に残った夏隊員を見送りに行った。最初は皆、笑顔だったが、無線で迎えのヘリが「しらせ」を発艦した知らせを受けると言葉少なになった。

昭和基地沖に停泊している「しらせ」からのヘリは、すぐにAヘリポートへ到着した。越冬隊は一列になり、最後の隊員を見送った。

涙を流す者、堅い握手で見送る者、抱きしめ背中を叩きあう者、それぞれにそれぞれの思いを込めて仲間を見送った。

しらせへと帰っていくヘリを見送る

飛び立つヘリのダウンウォッシュに吹き飛ばされそうになりながらも、必死にヘリに手を振り続けた。上空を旋回するヘリに、越冬隊の皆で円陣を組み手を振った。やがてヘリが見えなくなると、停泊している「しらせ」が見える富士ケルンというスポットまで移動し、そこで汽笛を鳴らし去っていく「しらせ」を見送った。甲板には、57次隊、58次隊、そして「しらせ」乗員が手を振るのが見えた。「ありがとう!」「元気でなー!」と見えなくなるまで叫んだ。

そして、ついに私たち越冬隊33名だけの昭和基地での生活が始まった。

帰途に就くしらせ

しらせを見送る越冬隊員

■越冬隊名物「キャベツの皮むき」と南極ロールキャベツ

翌日、2月16日。越冬交代して初めての休日日課。シーンと静まり返った昭和基地で、越冬隊名物「キャベツの皮むき」を行った。

3カ月前にオーストラリアで仕入れたキャベツだ。長く持たせるため、芯の切り口には石灰が塗ってある。アルカリ性の石灰は酸化を防ぐと同時に水分の蒸発を防ぐというわけだ。もちろん腐らないわけではないが、腐って黒くただれた葉を2~3枚めくってやれば新鮮な葉が顔を出す。これを一玉ずつ丁寧に紙で包み冷蔵庫で保存する。

この作業を2~3回繰り返すと、キャベツは最後は大人のこぶし大までに小さくなるが、これで5月いっぱいくらいまでは生のキャベツを食べることができるのだ。

積み込んで3ヵ月たったキャベツの腐った皮をむいていく。

腐ったキャベツは当然臭いしぬるぬるしている。手袋はしているが当然その触感は気持ちのいいものではない。皆一様に眉間にしわを寄せ作業に取り掛かる。匂いに負け嗚咽を繰り返す隊員もいたほどだ。

ただ、皮をむいてきれいになったキャベツを見ると皆、顔がほころぶ。大切に食材を扱うことで食べるときの美味しさも一層際立つ。一気に人数の減った昭和基地で最初に行った共同作業。ちょっと沈んだ気持ちも上向きになっていく。

皆でキャベツオペレーション

きれいになったキャベツ

皆できれいにしたキャベツで、ロールキャベツを作った。先日の送別会でフォアグラを火入れしたときに出た美味しい脂や、サフォークや鹿肉の端肉をミンチにして合挽肉に練りこんだタネ。これを皆の気持ちのこもったキャベツで巻いていく。

鍋にぎゅうぎゅうに詰め、生ベーコンとコンソメで煮込んでいく。まずいわけがない!

南極ロールキャベツの出来上がり!

皆が笑顔で食卓を囲んでいると本当に嬉しい。さあ、一年間がんばるぞ!という気持ちが湧いてくる。(続く)

文・写真提供/青堀 力
イタリア料理、フランス料理店で修業後、第49次南極地域観測隊に調理担当として参加。帰国後、在ラトビア日本大使館公邸料理人、ホテルグリーンプラザ白馬料理長を経て2016年、第58次南極地域観測隊として再び南極の地へ訪れる。

※今年2017年は日本の南極観測60周年にあたります。
国立極地研究所公式サイト: http://www.nipr.ac.jp/

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