両国の江戸東京博物館では、妖怪に関する大規模な展覧会が開かれています。江戸時代に盛んに描かれた妖怪画はもとより、縄文時代の土偶や平安時代の仏画、今をときめくゲーム・アニメ「妖怪ウォッチ」のキャラクターまで登場するこの展覧会は、これまでの妖怪展よりも、ぐんと視野の広いものです。
展覧会を監修した、萬美術屋の安村敏信(やすむらとしのぶ)さんは、妖怪を語るには仏画が欠かせないと言います。
「日本に現存する妖怪の絵画は、南北朝時代のものが一番古いのですが、この時代に突然、絵師が妖怪を描けるようになったわけではありません。鬼や異形のものが描かれる地獄絵などの仏画が妖怪のイメージソースになっているのです」(安村さん)
そのもっともわかりやすい例が、12世紀に描かれた国宝「辟邪絵(へきじゃえ)」の「神虫(しんちゅう)」です。昆虫を巨大化することで怪獣にしています。
これは、室町時代の「土蜘蛛草紙絵巻」に登場する蜘蛛を巨大化した化物や、江戸時代に歌川国芳(うたがわくによし)が描いた骸骨を巨大化した妖怪へと連綿と受け継がれます。構図もそっくりです。
さて、仏画が描かれる以前、つまり、仏教が伝来する以前の日本人が、自然に対する恐れや不安を形にしていなかったかというと、そんなことはありません。縄文時代の土偶の異形の造形も妖怪のルーツかもしれません。
「時代が下って古墳時代には埴輪も作られますが、埴輪は副葬品であって個人と一緒に埋葬されるものですから、恐れを造形化したものではありません。見た目もかわいらしいです。だから今回は土偶を展示することにしたのです」(安村さん)
展覧会を開催するにはそれらの現物を借りて来なくてはなりません。今回の展示品は国宝・重要文化財クラスのものが目白押しです。
「一つ一つの所蔵先に足を運び交渉しました。なかには妖怪の展覧会ということで抵抗感をしめす方も当然います。そういった場合は、何でも良いのではなく何故この絵を見せたいのか説明し、説得していきました」(安村さん)
豪華な展示品のラインナップの背景には、出品交渉の大変な苦労があるのです。おそらく二度と目にすることのできない、古今の妖怪たちの饗宴です。
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【大妖怪展 土偶から妖怪ウォッチまで】
■会期/2016年7月5日(火)~8月28日(日)
■会場/江戸東京博物館 1階特別展示室
■住所/東京都墨田区横網1-4-1
■電話番号/03・3626・9974(代表)
■料金/一般 1350(1080)円、大学・専門学校生 1080(860)円、小中高学生・65歳以上 680(540)円
※()内は20名以上の団体料金。
■開館時間/9時30分~17時30分(23日の土曜日は19時30分まで、7月29日の金曜から、金曜と土曜は21時まで)
※入館は閉館の30分前まで
■休館日/月曜日(ただし、8月8日、15日は開館)、7月19日
■アクセス/JR総武線両国駅西口下車 徒歩3分、東口下車 徒歩約7分
都営地下鉄大江戸線両国駅(江戸東京博物館前) A3・A4出口 徒歩約1分
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』