今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。

【今日のことば】
「もしもたくさんのいのちの為に、どうしても一つのいのちが入用なときは、仕方がないから泣きながらでも食べていい。そのかわりもしその一人が自分になった場合でも敢て避けない」
--宮沢賢治

宮沢賢治の童話『ビヂテリアンの大祭』より。賢治は明治29年(1896)8月、岩手の生まれ。その2か月前に、東北地方で大きな地震があり、津波による甚大な被害が出た。漱石は当時、熊本の第五高等学校に勤務していたが、この報に接し、学校の皆と協力してすぐに義捐金を送っている。

かつては人類も、地球上の大きな食物連鎖の中に位置づけられていた。狩猟民としてのライフスタイルは、どこかでまだそこに足先をかけているようにも思えるが、基本的にはいつのまにかそこから脱け出して、日本では飽食やグルメの時代を迎えている。

宮沢賢治が「羅須知人協会」をつくって目指したような理想主義は、凡人たる身には、なぞることも難しかろう。また、おいしいものを、お腹いっぱい食べられるというのは、まことに結構でありがたいことなのである。だが、せめて1年に数度くらいは、食べることは他の「命をいただいている」ことなのだということを思い起こしたい。

それが、感謝の心と、自分の命をも大切に育む気持ちの確認に、つながるのではないか。

日本の食品廃棄物は年間約2800万トンもあるという。こうした数値を耳にすると、二重、三重の意味で悲しい。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

 

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