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「いれものがない両手でうける」(尾崎放哉)【漱石と明治人のことば46】

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今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。

【今日のことば】
「いれものがない両手でうける」
--尾崎放哉

近年はミニマリストというものが流行るらしい。なるべく余分なものを持たないようにして生活する。そんなライフスタイルをとる人たちのことをいう。

そうした意味では、俳人の尾崎放哉は彼らの先達ということにもなろうか。明治18年(1885)の生まれ。夏目漱石と同じく、一高から東京帝国大学というエリートコースを歩み、生命保険会社の支配人などをつとめた。だが、会社という枠組みにおさまっていられず、40歳を目前にしてすべてを抛(なげう)つ。退職金もことわって会社を辞め、家を捨て、妻とも別れ、掲出の句に詠まれるような無一物の暮らしに入っていく。

各地の寺院などを寺男や堂守としてわたり歩いたあと、最後は死に場所を求めるように小豆島の西光寺奥の院南郷庵に落ち着く。それから半年ほど経った大正15年(1926)4月7日、ひっそりと息を引き取った。これもひとつの、理想の逝き方か。

放哉死去の報に接し、ひとりの女性が西光寺を訪ねてきて、「尾崎放哉の妹」と名乗った。後日、この女性は放哉の妻・馨であったことがわかり、友人知己の胸を深くえぐったという。

筆者が現地に復元された南郷庵を訪れ、放哉の遺品らしきインク瓶(丸善のアテナインキ)を見たのは、もう10数年前のことだ。放哉は孤独な暮らしの中で、このインクを使って友人たちに多くの手紙を書いていた。

さまざまな持ち物は捨て去っても、放哉は、友情と愛情という目に見えない人の思いに支え続けられていたのであろう。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

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