喜劇、悲劇、英雄伝説、歴史物語など、時代を超えて人々を惹きつけてきたオペラの物語のスタイルは多彩。それぞれに、お腹を抱えて笑ったり、涙が止まらなかったりと、観るものの感情がぐっと高まるクライマックスも多彩だが、そのクライマックスが〝狂乱の場〟になるという愛の悲劇が、ドニゼッティの『ルチア』である。
このひと際“濃い”名作オペラが、東京・初台の新国立劇場で3月14日から26日にわたって上演される。
新国立劇場でのこの作品の上演は14年振り。しかも、今回はモナコ公国・モンテカルロ歌劇場との共同制作による新制作。さらに、この新国立劇場での上演が、モンテカルロ歌劇場での上演に先立つ初演になるということで、国内外のオペラ・ファンからも期待の目が集まっている。
オペラの世界では19世紀の初頭をよくベルカントの時代と呼ぶ。この時代の優れた作曲家といえば、ロッシーニ、ベリー二、そして、ドニゼッティ。彼らによって築かれたのが、メロディと歌手の声と歌唱力を優先するという、イタリアのオペラの伝統。今、わたしたちがイタリア・オペラといってイメージする、優美な旋律や美しい声、歌手の技巧が堪能できる歌唱芸術は、この時代に生まれたのだ。ちなみにベルカントには「美しい歌」という意味がある。
そんなベルカント・オペラの最高傑作といわれる『ルチア』の原作は、スコットランドの実話を元に書かれたウォルター・スコットの小説「ランアムーアの花嫁」。仇敵の家に生まれた若い男女の激しい純愛物語。注目のクライマックスの「狂乱の場」は、ヒロインのルチアが悲嘆のあまり狂気に陥る第2部の第2幕に訪れる。プリマドンナが10分以上にわたって超絶技巧と演技力を駆使して悲劇的な錯乱状態を表現する、まさに最大の見せ場なのだ。
今回そのルチアを演じるプリマドンナが、2007年のデビュー以来、世界の一流歌劇場で次々と主役デビューし、ベルカントの新女王と評されているロシアの歌姫ペレチャッコ。美声と高度の歌唱技術はもちろん、観客の目を釘付けにする美貌をも持つペレチャッコの「狂乱の場」は、音楽ファンの間では、すでに目撃するべき話題となっている。
演出はモンテカルト歌劇場総監督を務める、ジャン=ルイ・グリンダ。機知に富む演出で定評のあるグリンダが、ロマンティックで劇的な物語を、新国立劇場の舞台で、どのように描き出すか注目だ。
イタリア・オペラの醍醐味を、話題満載の新制作『ルチア』で体感するという幸運な機会を、逃したくはない。
【新国立劇場 2016/2017シーズンオペラ ガエターノ・ドニゼッティ『ルチア』】
公演日:2017年3月14日(火)〜26日(日)
会場:新国立劇場 オペラパレス/東京都渋谷区本町1-1-1
[全2部3幕/イタリア語上演 日本語字幕付]
■新国立劇場オペラサイト
http://www.nntt.jac.go.jp/opera/
https://www.facebook.com/nnttopera/
■問い合わせ:電話:03・5352・9999(ボックスオフィス)
文/堀けいこ