今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。

【今日のことば】
「年を取って負けなくなったのは、弱くなって大事を取るからだ。出足が遅くなったから自然と用心をする」
--太刀山峰右衛門

太刀山峰右衛門(たちやま・みねえもん)は明治期の相撲取り。強烈な突き押しを武器とし、ひと突き半で相手を土俵の外に追いやってしまうことから、「四十五日の鉄砲」(ひと月半)と呼ばれた。呼び戻しという荒技も得意とした。相撲内容が力づくで一方的となりがちなため、通好みでなかったともいわれる。幕内の通産成績は195 勝27敗15引き分け。43連勝、56連勝という連勝記録も残している。

夏目漱石も相撲好きで、両国の国技館へも足を運んでいた。どうやら漱石は、上記「通好み」の嗜好に反して、太刀山を贔屓にしていたらしい。そのため、門弟たちにちょっと揶揄されてもいる。

その太刀山が「弱くなってから負けなくなった」と語るのは、勝負士の心理の微妙な綾を伝えて興味深い。このことばは、実は、太刀山が新聞記者としての野村胡堂に語ったもの。のちに「銭形平次」という架空のヒーローを生み出す野村胡堂は、30歳の頃から報知新聞の記者として働き、一時、「人物館」と題する人物批評欄を手がけていたのである。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

 

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