誰袖(たがそで)花魁
I:さて、瀬川が吉原から去って、17回からは、誰袖(演・福原遥)の登場です。このキャラクター、初見ということではなく、劇中前半は「かをり」という名の「振袖新造」。時の流れは、禿(かむろ)を振袖新造に、振袖新造を花魁に「成長」させます。
A:まさに「ゆくかわの流れは絶えずして しかももとの水にあらず」。毎年4月に新入社員が入社してくるのと同じように、毎年あらたな女郎が入ってくる。「かをり」は吉原内で蔦重に抱き着いてくる場面があったり、ずっと「蔦重のことを想っていた」女郎で、蔦重に身請けされたいと「思いをストレートに伝える」無邪気なキャラクターのようです。
I:再三劇中でも触れられていますが、吉原ではたらく男子が女郎とわりない仲になるのはご法度。厳に慎まねばなりません。この誰袖という女郎も実在の有名女郎。大文字屋という妓楼に在籍していました。実際に蔦重を慕っていたかどうかについては定かではありません。瀬川を身請けしたのが「検校」でしたが、誰袖がどういう人物と接点を持つのかがポイントです。
A:じゅうぶん背景をリサーチしてからドラマを見ている方には、そのあたりも先刻承知かと思いますが、誰袖の身請けがどのように描かれるのか、天真爛漫で無邪気な女郎の行く末に注目が集まりますね。
家治に子作りを勧める大奥の闇
I:さて、劇中では、将軍継嗣不在ということを受けて、家治に子作りを頑張ってもらおうという動きがあったことが描かれました。
A:このころ家治はまだ40代。まだなんとかなるという感じもしないでもないのですが、なんだか切ないですね。初代家康が後に御三家となる義直(尾張)、頼宣(紀州)、頼房(水戸)をもうけたのは50代後半で、頼房が生まれたのは満年齢で60歳ですからね。
I:将軍家治は大河ドラマには初登場ですが、大奥を扱う映画やドラマではよく登場する将軍です。「もっと頑張れ! 家治」ということで、「大奥フリーク」の方から見たら、「大奥の描写はないの?」ということになるのかもしれません。『べらぼう』の制作統括の藤並英樹さんは、2023年の『大奥』でも手腕をふるっていますから、やろうと思えばできたと思うのですが……。
A:吉原パートに、出版パート、さらには江戸城パートもありますからね。それに加えて大奥パートまで入ってきたら収集つかないですよ。そして、江戸城の政局もいよいよきな臭くなってきました。
I:江戸城の政局が、やがて蔦重ら市井の人々の人生を左右するようになります。私は、その過程をどのように描いてくるのかということに物凄く注目しています。きっと心が千々に乱れる嵐のような展開になると、いまから心しているのです。
A:いったいどういうことになっていくのでしょうか。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり
