ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下「べらぼう」)第3回で印象に残った場面があります。吉原の妓楼「松葉屋」の花魁花の井(演・小芝風花)が儚げな表情で一冊の本を読んでいる場面です。花魁が読んでいるのはどんな内容の本なの? と思った人は多いのではないでしょうか。
編集者A(以下A):あの本のタイトルは『塩売文太物語』。劇中の時代から20数年前の寛延2年(1749)の刊行。花の井の読んでいる本も何度も繰り返し読まれたようで少しくたびれていました。版元は片岡愛之助さん演じる鱗形屋孫兵衛(の先代か?)。2頁にわたって『初めての大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」歴史おもしろBOOK(https://serai.jp/hobby/1215006)』には『心清く正しくしていれば幸せになれる「家族の愛の物語」』と見出しが掲げられています。少し引用します。
塩売りの文太夫妻は、ひとり娘の小しおを愛情いっぱいに育てた。心優しい娘に成長した小しおは、文太が預かっていた大宮司のオスのオシドリが一羽だけで籠に閉じ込められているのを愛する助八と別れた我が身と重ねてかわいそうに思い、放してやる。
I:オシドリを籠から逃がしてやるというのは、海岸で亀を助けた浦島太郎の物語の「動物の恩返し」にもつながりますし、小しおが別れた助八が実は都の貴族だったという貴種漂流譚的なオチがあったり、小しおをいじめる「ねじかねばば」というお婆さんも登場するなど、ストーリーがおもしろいんです。両親(文太夫妻)が預かっていた大宮司のオシドリを勝手に逃がして両親を窮地に陥れるという展開も昭和の「大映ドラマ」の香りがして、なんだかゾクゾクしたりします。
A:それでも最後はハッピーエンドなんですよね。
I:根底にあるのは「家族の愛」。吉原で花魁として生きる花の井のような女性たちが得られなかった、憧れそのもののようなテーマなのかもしれませんね。
I:さて、蔦重は入銀という今でいうクラウドファンディングのような手法を使って新たな本を手掛けます。
A:現代でもありますが、色恋営業的な手法で長谷川平蔵(演・中村隼人)に金をだしてもらっていましたね。そういう遊びだとわかっていて出したと思うのですが、これが本気になるとたいへんです。
I:色恋営業って……。
A:いずれにしてもお大尽遊びですね。色恋だとわかっていてゲームとして楽しむのか、完全にはまってしまうのか、どっちにしても身上潰してしまってはもともこもないわけですが。
【クラファンで作った新たな本。次ページに続きます】